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2007年10月28日 (日)

山田洋次の世界 「隠し剣 鬼の爪」

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私が最も尊敬する映画監督が「男はつらいよ」シリーズで有名な山田洋次さんである。山田さんの作品はほとんどすべて観ている。山田さんは最初の作品からジャンルに関係なく、一貫して庶民の生活を描いている。そこに家族愛、兄弟愛、男女の愛とはどういうものか、またそれらを描きながらその時代時代の世相を巧みに風刺した作品・・・、名作を作っているのです。今日はその山田さんの傑作の数々の中から「隠し剣 鬼の爪」を、ストーリーを簡単に追いながら紹介させて頂きます。

2004年製作のこの「隠し剣 鬼の爪」は山田さんには珍しい時代劇で、藤沢周平さんの原作を映画化した時代劇三部作の第2弾である。日本アカデミー賞最優秀賞を総なめにした「たそがれ清兵衛」に続く作品。「たそがれ清兵衛」の真田広之さんに代わって今回の主役には永瀬正敏さん。実直で思いやりのある下級武士を非常に上手く演じている。また、松たか子さんも、けなげに主人に仕える心優しい女中、「きえ」を好演しています。

ストーリーは日本が揺れ動いている幕末の東北地方・海坂藩が舞台。下級武士、片桐宗蔵の家族と、急変する藩の様子を描いた作品である。前述したように主人公の宗蔵に永瀬正敏さん、女中のきえに松たか子さん、山田組の倍賞千恵子さん、吉岡秀隆さんの他に、ベテラン緒形拳さん、小林稔侍さんなど、そうそうたる面々が出演している。

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毎日笑みが絶えない主人公、宗蔵の家も時代の波と共に少しずつ変化が起こり、母(倍賞千恵子さん)が亡くなり、女中のきえも商家に嫁いで行き、宗蔵の家は下僕とばあやの三人となり、寂しい毎日が続くようになる。時代は刻々と動いていく中、或る日宗蔵は偶然きえと出会う。嫁いだ先で幸せな日々を送っているものと思っていた宗蔵だが、やつれて寂しそうなきえに対し、自分が何も出来なかった事を悔やむ。

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その後妹からきえが嫁ぎ先で酷い仕打ちを受けて病に伏せている事を知った宗蔵は、商家に押し入り、病の床に伏せているきえを強引に連れて来てしまう。大騒ぎする商家の母に対し、「役人に届けたければそうせばええ! きえはこの俺が刀さ掛けても守る!」と自分の家に置いて、妹の助けを借りて養生させる。

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宗蔵はきえを商家と正式に離縁させ、自分のところで養生させる。きえも次第に元気を取り戻し、宗蔵宅は再び笑みが聞こえる毎日となる。しかしその間に海坂藩・江戸屋敷で謀反が発覚し、幕府に知られるのを恐れ、関係者を隠密裏に処分するという出来事が起きる。その内の重罪人は切腹を認めず「郷入り」という極刑に処し、国元に護送されて来る。ところが処刑人は脱走してしまった。

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楽しい日々が続く或る日、宗蔵はきえに幸せを掴んでもらいたい為、心を鬼にして実家に帰るよう命令する。
宗蔵「もう、体もすっかり元気になった事だし、そろそろ実家さ帰った方がええ・・・」
きえ「わたし・・・、旦那はんのおそばさえ居てお世話する事は、ちっとも嫌ではあるますねぇ。このままではだめなのでがんすか?」
宗蔵「だめだ!」
きえ「どうしてだめでがんすか?」
宗蔵「おめえにはおめえの人生があるではねえか! 俺の女中で一生終わるなんてとんでもねぇ! 実家さけえれ!」
きえ「・・・旦那はんの・・・お言いつけでがんすか・・・それは・・・?」
宗蔵「んだ・・・、俺の命令だ!」
きえ「・・・分かりました。ご命令だば、仕方ありますねぇ・・・」と、寂しく涙を流すきえ。

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脱走した処刑人の親友であった宗蔵に謀反人を抹殺するよう藩命が下る。果し合いで親友を斬った宗蔵はご家老(緒形拳さん)の元に報告に行くが、罪を減じるよう願いに来た親友の妻を騙して手篭めにした家老を許せず、「隠し剣 鬼の爪」で家老を斬る。緒形拳さんがさすがベテランの味で、憎たらしい事この上ないくらいの家老を演じている。さぁ・・・、この鬼の爪とは・・・なんでしょう? これは是非映画を観て確認して下さい。(笑)

つくづく武士の生活が嫌になった宗蔵は藩を捨て、蝦夷に行く事を決める。そして妹夫婦とも生涯の別れを告げる。当時としては蝦夷(北海道)に行く事は事実上、生涯の別れだったのでしょうね。その蝦夷に向かう前に、実家に帰っているきえを尋ねるのである。そこで宗蔵は初めて本心を吐露する。

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宗蔵「きえは・・・もう・・・、嫁入り先は決まったのか?」
きえ「父親がなんぼか話は持って来ましたども・・・」
宗蔵「んだか・・・、まだ決まってはいねえだか。俺は侍が嫌になったので侍を捨てて、蝦夷の地で商売でも始めようかと思っての・・・」
きえ「せば・・・、もう・・・一生お会い出来ないのでがんすか?」
宗蔵「きえ・・、俺と一緒に行ってはくれねえか? どんだ・・・俺と夫婦なってくれねえが?」
きえ「あたす・・・、そげな事急に訊かれても・・・」
宗蔵「俺はお前を好きだ! 初めて会った時から・・・ずっと好きだ! きえ・・・、お前はどんだ・・・?」
きえ「そげな事・・・、わたす考えた事もありますねぇ・・・」
宗蔵「だば・・・、今考えてくれねえが・・・? ・・・どんだ・・・考えてぐれだか・・・?」
きえ「それは・・・、旦那はんのご命令でがんすか・・・?」
宗蔵「・・・んだ・・・、俺の命令だ!」
はにかみながら・・・、きえ「・・・ご命令だば、仕方ありますねぇ・・・」

2007年10月20日 (土)

黒澤明の世界 「用心棒」

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今やアカデミー監督として有名なクリント・イーストウッドをご存知だと思いますが、彼の出世作として挙げられるのは先ず第一にマカロニウエスタン(もう死語ですね)の「荒野の用心棒」だと思います。マカロニウエスタンをご存じない方の為に説明致しますと、西部劇映画は言うまでもなくアメリカで作られた映画であるわけですが、なんとその西部劇をイタリア映画が作って一時ブームになった事があるのです。イタリア製西部劇をマカロニウエスタンと日本では名付けられ、クリント・イーストウッドはこのマカロニウエスタンで大ブレークしたアメリカの俳優であったわけです。

さて、そのマカロニウエスタン「荒野の用心棒」は日本の名匠、黒澤明監督の「用心棒」をそっくりパクッた映画であることは私が今更言うまでもなく有名な話しですね。本家「用心棒」は 1961年製作で、黒澤作品の娯楽作として筆頭に挙げられる傑作映画だと思う。出演は三船敏郎、東野英治郎、山田五十鈴、仲代達矢、加東大介と、日本映画を代表する方たちによる時代劇としての大傑作。

たまたま通りすがりに入った宿場には二組のやくざ連中が派を競っていた。三船さん扮する浪人がこのやくざをけしかけて喧嘩させ、双方とも潰してしまおうと画策するわけですが、ストーリーがなかなか良く考えられている。

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このシーンはこの映画の中でも大変印象深い名セリフが聞けるところ。ジェリー藤尾さんら、宿場のやくざが三船さんを取り囲んで脅すと、三船浪人が「斬られりゃ痛ぇぞ! まったく馬鹿に付ける薬はねえな!」と捨てぜりふを言った途端、居合い切りで数人のやくざを切ってしまいます。左腕を切り落とされたジェリー藤尾さんが「痛ぇよ~! 痛ぇよ~!」とのた打ち回るシーンは本来なら残酷なシーンなんですが、何故か滑稽に見えてしまうんですよね。「斬られりゃ痛ぇぞ!」と言われた直後だけに可笑しいので、黒澤演出の上手さだと思う。

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「七人の侍」では農民を守る侍たちのリーダー、志村喬さんの右腕役を好演していた加東大介さん(左)がここでは少し頭の足りないやくざを演じていて、これがまた上手い演技なんですね。また、その「七人の侍」で重厚な演技を見せていた志村喬さん、「用心棒」では好色な商人の役で登場するのですが、皆さんキャラクターを上手く使い分けるものと感心してしまいます。さすが黒澤演出と、改めて感心してしまう。

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黒澤作品は良くこういったロングショットのカメラワークが見られる。シネマスコープの画角を考えたアングルだと思う。山田洋次監督の話題作、「武士の一分」での果し合いシーンが、この「用心棒」の影響を受けている事が分かってしまいますね。さて、ここからいよいよクライマックス。「天国と地獄」で警部役を好演した仲代達矢さんらのやくざ連中との果し合い。

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仲代達矢さんの扮装が興味深い。首にはなんとマフラーが巻かれている。そして時代考証では有り得ないはずの連発銃を持っているのです。完全に西部劇の真似ですね。こういうところは黒澤監督、娯楽映画に徹したのでしょうね。しかしお陰で仲代達矢さんが初登場するシーンではとても印象が強く残るのである。

映画では大事な音楽も、佐藤勝さんが書いたスコアが映画にとてもマッチしており、ラストシーンで三船浪人が世話になった「めし屋」の親爺(東野英治郎さん)に、「これでこの宿場も静かになるだろう。」と言ってパッと背中を見せて、「あばよ!」と言いながら立ち去って行くところで流れてくるテーマ音楽が画面にマッチしていて、とても印象強く映画が終わる。全盛期の黒澤明監督の娯楽傑作映画である。

尚、この三船浪人のキャラクターは「椿三十郎」へと引き続き、「用心棒」の続編的意味合いで作られている。「用心棒」の中で名前を訊かれると、目の前に広がる桑畑を見て、「名前は・・・桑畑三十郎。まもなく四十郎だがな・・・」というシーンは笑えます。

※ 各写真は、最近ハイビジョン放送されたもので、拙宅のスクリーンをデジカメで撮影したものです。

2007年10月13日 (土)

北海道旅日記 (番外)

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先日購入した iPod touch に転送されていた写真を見ていたら、北海道で撮影したものがかなりの枚数あり、ついつい見てしまった。で、今日のブログは北海道旅日記の番外編という事で写真数枚を。この写真は初日、羽田の待合室から撮ったもの。AIR DO のテイクオフ。多分、旭川行きではないかと。私は手前のジャンボで新千歳へ。

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美瑛から富良野に向かう途中で撮影したもの。なんか傑作映画「スウィングガールズ」の一場面を彷彿とさせる。如何にもローカル線らしさを感じますね。

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初日の宿が在る阿寒湖畔に向かう途中のエリアで撮影。「帯広」かぁ・・・なんて考えながらシャッターを押しました。

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摩周湖から知床へ向かう途中の「リリーパーク」での撮影。肝心の「ゆり」の花は綺麗なものが少なかった。それでも雨上がりの園内をぶらぶらと。

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オシンコシンの滝へ向かう途中、車窓から見る羅臼岳。北海道の大地を走行してみると、とにかく信号が無い! 見通しは何処も良いし、道路は直線が多いし、今更言うまでもなく北海道は雄大。この一言に尽きる。

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オシンコシンの滝。G7 による手持ちの撮影。携帯電話で撮影している人が多かったですね。写真左側からオホーツク海に流れている。以前にも書きましたが、初めて見るオホーツクの海に感動してしまった。

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知床五湖でのツァー客行方不明については先の旅日記で書きましたが、一般駐車場はこのような物々しさ。そういえば行方不明の方はどうなったのかなぁ・・・?

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大雪山国立公園、銀河の滝。この時は結構雨が降っていて、傘を差しながらの撮影。この後層雲峡へ上がるも、バケツをひっくり返したような大雨に遭遇。天候は必ずしも恵まれませんでしたが、思い出深い北海道旅行でした。改めて美瑛と富良野を撮影しに行きたいと思ってはいるのですが・・・。

写真はすべてキヤノン PowerShot G7 で撮影。

2007年10月 6日 (土)

黒澤明の世界 「天国と地獄」

Kurosawa_01_2黒澤明監督、それほど映画を好きでない方もご存知だと思う、日本映画界の巨匠。実は私が初めて黒澤作品を観たのはもう大分前で、二十歳過ぎくらいだったと思う。モノクロの古い作品をリアルタイムで観たわけではなく、東宝が黒澤明監督の作品を集中的にリバイバル上映した時が初めてでした。当時リバイバル上映で観た映画は「七人の侍」「用心棒」「椿三十郎」「天国と地獄」「赤ひげ」「生きる」の六本だったと思う。

中でも衝撃だったというか、ラストシーンが未だに忘れられない作品として「天国と地獄」を挙げる。自分としては黒澤作品として第一に挙げられる「七人の侍」や、娯楽作品として大傑作の「用心棒」より、「天国と地獄」を黒澤作品一番の傑作として挙げたい。1963年製作、エド・マクベインの小説を映画化したもので、営利誘拐を扱ったストーリー。この映画を真似た誘拐事件が実際に起こり、以後営利誘拐は重罪として刑法が改正されたくらい影響の大きかった映画なのです。

とにかく全編緊張しっぱなしで眼が離せない映画であり、全盛期の黒澤明監督が如何に優れた映画監督であったかを如実に知る事になる。「用心棒」で非道な殺し屋役を演じていた仲代達矢さんが捜査本部の総指揮を執る警部役で好演しています。誘拐の標的にされ、会社トップを狙って画策している重役の権藤を演じているのが黒澤作品には欠かせない三船敏郎さんが演じている。子供が誘拐され、身代金を要求されるものの、犯人が誤って権藤の子供ではなく、権藤のお抱え運転手の子供を誘拐してしまった。しかし容赦なく犯人は身代金を権藤に要求するものの、権藤にとって今持っている大金は社長の椅子を狙って株買占めの為の大金。

運転手の子供の命を取るか、自分が狙っている社長の椅子を取るか・・・。子供は自分の子ではない・・・、だから社長の椅子を・・・、権藤の心の中で葛藤が続く。この辺の心理描写が見ものです。これから観てみようと思われる方の為にこれ以上の詳しいストーリーは言いませんが、ストーリーも面白いし演じている役者さんも素晴らしい人ばかりで、「天国と地獄」は大傑作だと思う。誘拐犯の役を演じているのが現在では貫禄のある俳優さんになっている、山崎努さん。この映画がデビュー作品だと思う。ネットで山崎努さんを検索してみたら、この映画の撮影当時 26歳であった。

この映画、時代的にはカラーで撮られていて不思議ないのですが、モノクロで撮影されています。実はこの映画、「或るワンシーン」だけカラーになるのです。そうか・・・、このシーンの為にモノクロで撮っているのか・・・と、改めて黒澤明監督の天才振りを知る事になる。劇場で観た時はショッキングでした。やられた~・・・と思いましたね。

身代金を犯人側に渡す時のシーンも「おお、なるほど・・・」と感心させられます。犯人がお金を入れるカバンの厚みを限定して来るのですが、これが大きな伏線となっているわけです。当時最速の国鉄「こだま号」が身代金受け渡しに大きな意味を持つのですねぇ。とにかくひとつひとつのカットが皆大きな意味を持っている映画で、カメラワークも素晴らしいです。

さて、ラスト。拘置所で三船敏郎さん演じる権藤と、誘拐犯役の山崎努さんとの面会のシーン。私は山崎努さんの演技にショック(素晴らしいという事)を受け、映画が終ってもしばし席を立てなかった事を今でも覚えている。

先月、この「天国と地獄」と「生きる」がテレビでリメイクされました。TV 版「天国と地獄」では捜査本部の警部役を阿部寛さんが演じていたが、なかなか良かったですね。ただオリジナルの映画版の方があまりにも素晴らし過ぎるので、リメイク版は頑張っていたもののオリジナルと比べると・・・。そうそう、暮れにはこれまたリメイクされた映画版「椿三十郎」が公開されるとの事。主役、椿三十郎には織田裕二さんだそうで・・・。う~ん・・・、ちょっとイメージが違うなぁ・・・。

「天国と地獄」、是非ご覧になって下さい。
素晴らしい映画ですよ~・・・。
ご覧になったら感想を是非聞かせて下さいね。

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