学校 / 山田洋次監督作品
松竹映画「学校」
監督 山田洋次
出演 西田敏行(黒井先生)、竹下景子(田島先生)、イノさん(田中邦衛)、えり子(中江有里)、みどり(裕木奈江)、カズ(萩原聖人)、オモニ(新屋英子)他
今週NHK-BSで私が尊敬する山田洋次監督の名作、「学校」シリーズ全四作が放映された。恐らく山田さんとしては「学校」を製作した際、年月を経ているとはいえ、まさか四本も作るとは思っていなかったのではないかと思う。
今日紹介する第一作「学校」は平成5年公開されたもので、夜間中学校(高校ではない)を舞台としている。この映画が製作された当時、北海道、九州、四国、沖縄を除く日本全国には35校の夜間中学校が在ったそうです。義務教育を何らかの事情で受けられなかった人たちが、中学だけは卒業したいと一生懸命勉強している人たちが、全国に数多く居たのですね。
映画はざっくばらんな性格の黒井先生の生徒(男女年齢は様々)たちの、挫折や苦境などから這い上がろうとしている姿を山田洋次さんらしい視点で描いている。焼肉店を経営している在日韓国人のオモニのひたむきに勉強する姿、シンナー遊びや恐喝などで鑑別所に入っていたみどり、昼間働きながら夜間中学に通うカズ、登校拒否に陥ったえり子、中国と日本の混血で日本の社会に馴染めないチャンなど、それぞれの過去を振り返りながら映画は進行して行きます。
中年になるまで読み書きが出来ないイノさんが何と言っても映画の主役ではないかと思う。肉体労働者のイノさんは街で見掛けた青年医学生にいきなり自分でも入れる学校はないかと持ちかけ、紹介された今回の夜間中学に入学する。プライベートでは大変な競馬好きで、授業ではなかなかカタカナすら書けないのに、競走馬の馬名になると黒板に「オグリキャップ」と書いてしまう。(笑)
授業中、黒井先生や同級生の前でオグリキャップのラストランとなった有馬記念の勇姿を実に感動的に実況中継するシーンは笑えます。というより、ホントに田中邦衛さんは演技が上手いです。「北の国から」のような実直な父親役も素晴らしいですけど、こういう労務者風の男を演じさせると彼の右に出るものは居ないのでは、と思ってしまう。
何とかやさしい字や計算が出来るようになった或る日、黒井先生は自分に手紙を出す練習をさせるのですが、イノさんは恋い焦がれていた田島先生にハガキで「結婚して下さい」と書いてしまうのです。困った田島先生は黒井先生に相談をし、黒井先生からそれとなくイノさんに断りを言うわけです。酒の勢いでオモニの焼肉店で暴れてしまい、黒井先生を罵るイノさんをオモニが「大恩ある先生になんて事言うの!」と叩いて店の人に外へ連れ出させてしまう。
しかしその時すでにイノさんの体は病魔に冒されており、故郷に帰ってから間もなく亡くなってしまうのです。故郷の伯母さんから連絡を受けた黒井先生は愕然としてしまう。田島先生の授業であったのをお願いして、急遽イノさんの思い出を語るホームルームに変更した黒井先生。黒井先生はイノさんの生い立ちを話して行くのですが、このシーンで私は思わず目頭が熱くなってしまいました。生徒たちと問答をしているうちに人生とは何か、人間にとって「幸福」とは何かを問い掛ける。
この人間にとっての「幸福」とは何であるかが、この映画のテーマだったのではないかと思う。黒井先生はオモニに「オモニにとっての幸福って何だい?」という問い掛けから始まり、此処で生徒たちは時に言い合いをしながらも自分の考えをぶちまける。
このブログを読んで頂いた皆さんにとっての「幸福」とは、どういったものでしょうか?
山田洋次さんは庶民の生活を淡々と描く作品が多いのですが、特に今回のイノさんのような労務者風の人を主人公に据えて人間の生き様や、家族とはどういうものか、恋愛とはどういうものかを非常に上手く描く人で、いつも見終わった後に「あぁ、今回も見て良かったなぁ」という熱いものが残るのです。
映画の最後に黒井先生が「学校」というものはどういうものかを語るのですが、「あぁ、これが山田洋次さんが望んでいる学校の姿なんだな・・・」という感想を抱いてこの映画を見終わりました。
是非、多くの方にご覧頂きたい作品です。DVDとしても発売されています。
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