
「007/ロシアより愛をこめて」 1963年 イオン・プロ製作
原作 : イアン・フレミング
監督 : テレンス・ヤング
音楽 : ジョン・バリー、主題歌 : マット・モンロー
出演 : ショーン・コネリー、ダニエラ・ビアンキ、ロバート・ショウ、ロッテ・レーニャ、ペドロ・アルメンダリス 他
イオン・プロ製作による映画は22本になりますが、シリーズ第2作の本作品がもっともスパイ映画らしさが出ていると思います。ちなみに原作である小説を書いている作家、イアン・フレミングは英国海外秘密情報部(現MI6)で実際にスパイ活動をしていた人で、引退後、自身の経験などをもとに007シリーズとなったスパイ小説を書き残したのです。それがハリー・サルツマンとアルバート・R・ブロッコリの目に留まり、一本(カジノ・ロワイヤル)を除いて二人が映画化の権利を得たわけです。
小説の冒頭でフレミングは以下の事を記しています。
この小説の事件はともかく、背景の大部分は正確な事実にのっとっている。スメルシュは今日も実在しているし、ソ連政府でいちばん秘密にされている部だ。この本が書かれた1956年はじめ、本国ならびに海外におけるスメルシュの勢力は四万人ぐらいで、グルボザボイシコフ将軍がその長になっている。この将軍の人相その他についてのわたしの描写は正確だ。
現在スメルシュの本部は、この本の第四章に書いたとおり、モスクワのシレテンカ通り13番地にある。会議室のようすも事実に忠実に描写したし、そのテーブルを囲んだ各情報機関の長たちも、この物語の場合と同じような目的で、ちょくちょくその部屋に召集される実在の官僚たちである。 1956年3月 イアン・フレミング
と、あります。スメルシュとはスマイエルチ・シュピオナム(スパイ死すべし)を詰めた言葉で、フルシチョフ首相によって解体され、改めて「KGB」が組織されたそうです。スメルシュはソ連にとって敵対する人物を抹殺する機関だそうで、映画だけの作られた話しではなかったのです。イアン・フレミングの小説はCIAの長官その他の人たちも、当時の実在の人物名を使っているので、実にリアルなスパイ小説となっています。私も小説を読んで、初めて各国のスパイ機関が実在しているのだと知ったくらいです。怖~・・・。

間単に本作のストーリーを述べますと、犯罪組織「スペクター」はノオ博士(第1作)を抹殺したボンドに復讐するため、スメルシュからスペクターに寝返っているローザ・クレッブ大佐に、ボンドを辱しめて抹殺する事を命じる。イスタンブールのロシア領事館に勤務しているタチアナ・ロマノヴァが、資料の写真を見てボンドに一目惚れ。自分をロンドンに亡命させてくれるなら、手土産に最新暗号解読機「レクター」を持参するとの事。罠と分かりつつ、暗号解読機が喉から手が出るほど欲しい英国情報部は、ボンドをイスタンブールに派遣する。果たしてボンドは無事にレクターを手にする事が出来るのか・・・。
久しぶりに原作を読み直したのですが、映画は実に忠実に原作を映画化していますね。原作と映画が大きく違うところを挙げておきますと、原作はボンドを辱しめて抹殺しようとしているのはスメルシュですが、映画では犯罪組織「スペクター」がスメルシュとの間に入ってボンドを辱しめて抹殺しようとしているところですね。
それと映画ではオリエント急行から脱出したボンドとロマノヴァがモーターボートを使ってベニスに逃れようとしますが、原作ではこのシーンはまったくありません。映画的効果を考えた脚本家の勝利ですね。

映画を初めて日本公開しようとした時、原題の「ロシアより愛をこめて」ではスパイ映画らしくないという事で、当時のユナイト映画日本支社に勤務していた故水野晴郎(後の映画評論家)さんらが考えた邦題が「007/危機一発」だったそうです。「一発」は本来なら「一髪」ですが、これも「一発」の方がスパイ映画らしいという事でわざと変えたそうですが、水野さんの後日談によると教育委員会から漢字が間違っているとクレームがあったそうな。(笑)
1972年、リバイバル公開された時にタイトルを原題「From Russia, With Love」に戻しております。

この映画でボンドが原作通りアタッシェケースを携行していますが、この映画が公開されるや、ビジネスマンにあっという間にアタッシェケースが広まったそうです。そうそう、オリエント急行が有名になったのもこの映画のお陰ですね。
そのオリエント急行の中でスペクター(原作はスメルシュ)が送り込んだ殺し屋、レッド・グラントとボンドとの格闘シーンは凄いリアルですね。テレンス・ヤング監督最高の演出だと思います。カメラワークも素晴らしい! 私はこのシーンこそ自分が観て来たあらゆる映画の格闘シーンの中でも、最高のシーンだと思っております。ショーン・コネリーとロバート・ショウは本当に素晴らしい演技でした。賞賛に値します。
もうひとつ原作と映画の違う箇所、ボンドとトルコ支局のケリムが映画の看板から脱出しようとするブルガリア人の殺し屋クリレンコを射殺するシーン、原作ではマリリン・モンローの映画「ナイアガラ」の看板ですが、映画ではサルツマンとブロッコリが同時製作していた映画「腰抜けアフリカ博士」の看板に変わっており、ヒロインのアニタ・エグバーグの口からクリレンコが出て来ます。
また原作、映画とも最後にボンドとローザ・クレッブ大佐おばちゃんとの格闘がありますが、映画では毒刃を仕込んだ革靴に難渋するボンドをロマノヴァが救ってくれますが、原作では毒刃に足を刺され、ボンドは気を失って倒れるところで終わっています。その時助けに来ていたのがフランス支局の旧友ルネ・マチス。このルネ・マチスはダニエル・クレイグの「カジノ・ロワイヤル」と「慰めの報酬」に登場していましたね。
ご参考までに小説の発表順は、
「カジノロワイヤル」1953
「死ぬのはやつらだ」1954
「ムーンレイカー」1955
「ダイヤモンドは永遠に」1956
「ロシアより愛をこめて」1957
「ドクター・ノオ」1958
「ゴールドフィンガー」1959
「007の冒険(短編集)」1960
「サンダーボール作戦」1961
「私を愛したスパイ」1962
「女王陛下の007」1963
「007は二度死ぬ」1964
「黄金銃を持つ男」1965
映画化は原作の順番とは随分違いますね。映画的効果の上がる作品から映画化したのでしょう。ちなみに映画で登場する組織、スペクターは原作では「サンダーボール作戦」から登場します。日本が舞台の「007は二度死ぬ」でスペクターのボス、ブロフェルドが最期を遂げますが、映画では「ダイヤモンドは永遠に」でしたね。
007を観るなら今日の「ロシアより愛をこめて」は絶対観なければいけませんよ。(笑)
ローザ・クレッブ大佐を演じているロッテ・レーニャ、もう・・・素晴らしい女優さんですね。原作のキャラクターを見事に演じております。もう、この人以外クレッブを演じられる人はいなかったのでは、と思わせる名演技です。プライベートのご主人は作曲家のクルト・ワイル。
殺し屋レッド・グラントを演じているロバート・ショウも原作通りの冷たいキャラクターで、これまた最高の演技でした。ロバート・ショウは後年、パニック映画の元祖「ジョーズ」に出演していましたから、どなたもご存知だと思います。主役のロイ・シャイダーとホオジロザメ狩りに行く際、船を出したあの人物。最後にホオジロザメに食われてしまうシャーク・ハンターを演じていた人です。レッド・グラント役とは全然違うキャラクターでしたが。
長くなりましたが、音楽を担当しているジョン・バリーがこれまた素晴らしいスコアを書いています。以後、007シリーズの音楽には欠かせない人になってしまいました。最後の作品は「リビング・デイライツ」です。007がヒットした一因にジョン・バリーの音楽があったからと言っても過言ではないでしょう。
ブルーレイディスクの画質、最近の映画かと見間違えるくらい見事な画質です。
余談ですが、この映画はソビエト連邦では上映禁止になった作品だそうです。それはそうでしょうね、スメルシュの実在の人間がそのままの名前で登場しているわけですから。
最近のコメント