
「なつかしい風来坊」 1966年、松竹作品
出演 : ハナ肇、倍賞千恵子、有島一郎、中北千枝子、真山知子、犬塚弘、他
脚本 : 森崎東、山田洋次
音楽 : 木下忠司
監督 : 山田洋次
今日(1月30日)、山田洋次監督の最新作「おとうと」が全国一斉公開される。山田監督にとって「十五才、学校 IV」以来、10年振りの現代劇になるようです。前作「母べえ」は戦中戦後のストーリーでしたから、なるほどそうなるのですね。間に時代劇三部作がありましたから、久しぶりの現代劇でもあり、公開を楽しみにしていました。
何度かこちらで書いている事ですが、私がもっとも尊敬する映画監督が山田洋次さんです。山田作品に一貫して描かれているテーマは「家族」であり、そこには親子の愛、兄弟愛、そしてその登場人物個々の恋愛など、常に人間の生き様を見る事が出来るのですが、中でもアウトローと評される世間一般常識から外れた人物を主人公に据える作品が多い。
本作「なつかしい風来坊」もそういった常識に掛からない労務者、源五郎(ハナ肇さん)が主役で、その源五郎に翻弄されるのが中流階級の或る公務員一家。その公務員を演じるのが個性的俳優の有島一郎さん。素晴らしい俳優さんでしたよね。
実はこの作品を知ったのはデジタル放送など無い時代のテレビ放送。見終わった後、さすが山田監督作品と感銘を受け、後にDVDを入手したわけです。
通勤電車の中で出会った労務者、源五郎とひょんな事から意気投合した良吉(有島一郎さん)は、家族が嫌がるのもお構いなしに源五郎を一晩家に泊めてしまう。以来、源五郎は度々良吉の家に出入りし、頼まれた家の営繕などを難なくこなして行くうちに良吉の家族からも重宝される存在に。
或る時、自殺を図ろうとした若い娘(愛子 : 倍賞千恵子さん)を救った源五郎が良吉の家に運んで来る。良吉一家の看病もあり、回復した愛子はそのまま良吉の家でお手伝いさんとして住み込む事になるのですが、いつしか源五郎は愛子に恋心を抱いてしまう。それを知った良吉の計らいで源五郎と愛子は一緒に映画を観に行く事に。
映画の帰り、公園で愛子の身の上を聞いた源五郎が愛子の手を握ろうとすると、びっくりした愛子はごみ穴に落ちてしまう。愛子を助けようとした源五郎ですが、それが大きな誤解を生む事に。豹変した良吉の家族から大きな不信感を抱かれた源五郎は過去の余罪から警察に逮捕されてしまい、さらには愛子も良吉の家から出て行ってしまう。
あれほど笑いが絶えなかった良吉家は再び元の冷んやりとしたムードの家族に逆戻り。おまけに良吉には八戸への転勤命令が下り、家族から総スカンを食った良吉は寂しく単身赴任する事に。しかし八戸への電車の中で良吉が見た光景とは・・・。
源五郎役のハナ肇さんが最高の演技です。こういうキャラクターを演じさせると非常に上手い人でしたね。良吉が小さな庭石をお金を出して買っていた事を知ると、石なんて金を出して買うものじゃねぇやね~と、源五郎が舎弟たちを使って河原から最高の石を庭に持って来たり、「今度は無口でしとやかな美人でも拾って来てもらいますか・・・」なんて呟いていると・・・、或る日源五郎が若い娘を背負って走って来るのです。このシーンには笑えましたねぇ・・・(^^)
ところでこの映画のラストシーン。胸にジーンと来るものがあるのですが、この作品を見て『あぁ・・・、名作「遥かなる山の呼び声」のラストシーンはこの作品が原型だったのだなぁ・・・』と思いました。しかし山田洋次監督はこの作品のラストシーンを評して後年、「甘すぎた・・・」とおっしゃったそうです。
しかし私はあのラストが有ったからこそ、この映画が救われたのだと思うのです。作品後半のやるせなさ・・・、ラストが救ってくれました。是非、皆さんにもこの作品をご覧になって頂きたいです。レンタル屋さんに在庫していると思いますので。
ちなみにこの作品は当時のブルーリボン賞の主演男優賞(ハナ肇さん)と監督賞を受賞しているそうです。私はもう何回観た事か・・・。好きな作品です。
※ 昨晩、久しぶりに観直してみたら、一部に思い違いの箇所がありましたので、加筆修正致しました。(1/31)
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