
モーツァルト/歌劇「魔笛」全曲
ヘルマン・プライ(パパゲーノ)、マルッティ・タルヴェラ(ザラストロ)、スチュアート・バロウズ(タミーノ)、ピラール・ローレンガー(パミーナ)、クリスティーナ・ドイテコム(夜の女王)、ゲルハルト・シュトルツェ(モノスタトス)、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(弁者)
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
1969年9月~10月 ウィーンで録音
DECCA UCCD 4540-2(3CD)
ユニバーサル ミュージック
余程のオペラファンでない限り、同一演奏のオペラ全曲のレコード、CDを繰り返し繰り返し聴く人はそう多くはないと思います。私自身も滅多にありません。何たってオペラ全曲を聴くとなれば二時間から三時間、ワーグナーに至っては四時間を超える曲もあるくらいで、なかなか繰り返し聴く時間も体力もないですねぇ・・・。(笑)
しかし私にとって例外が今日ご紹介するモーツァルトの歌劇「魔笛」全曲です。この演奏はレコードで本当に繰り返し聴いて来ました。オペラを聴いていて全曲をまったく弛緩する事なく聴ける演奏なんて、そうはないと思います。
最近この演奏のCDが国内盤としては比較的安価なプライスで出ているのをショップで見付け、購入してみました。96kHz - 24-bit リマスタリングを施したCDだそうです。
数年前に亡くなりましたが、ドイツ出身のバリトン歌手、ヘルマン・プライが私は大好きで、プライとの出会いがこの演奏だったのです。ここでプライに歌われる憎めないキャラクターのパパゲーノ、もう最高です。プライのパパゲーノを聴いて以降、未だにプライ以上のパパゲーノは聴いた事がないです。
パパゲーノのアリア、「俺は鳥刺し」、「可愛い女の子が」、プライの歌声はなんと楽しいのでしょう。それでいて第二幕後半で歌われるアリア、「パパゲーナ、パパゲーナ」で絶望して首を吊ろうとするシーン、誰かが止めてくれるのを期待しながら一、二、三と数えるのですが、誰も止めに来てくれない。その後に歌われる「誰も止めてくれねえなぁ・・・、よ~し首を吊ろう・・・」というプライの歌い回しには聴いているこちらも悲痛な気持ちになってしまうほどの表現力なのです。この演奏の「魔笛」をお聴きになった事がないクラシックファンの方には是非プライによるこのアリアを聴いて頂きたいです。もう・・・絶品です!
このプライによる素晴らしいパパゲーノを聴いて以降、同じモーツァルトの「フィガロの結婚」のフィガロ、「コシ・ファン・トゥッテ」のグリエルモを聴くに及び、以上三役はヘルマン・プライ以上のものを聴いた事がないです。シューベルトやヴォルフなどの歌曲にも大変素晴らしい演奏を残しておりますが、私にとってはパパゲーノを歌うためにプライは生まれて来たのではないかと思うくらい、パパゲーノと同化しているように聞こえます。もう一度言います、絶品です!
もう一人驚嘆した人が「夜の女王」を歌うクリスティーナ・ドイテコムです。コロラトゥーラソプラノのアリアとしては大変なテクニックと声質が問われるふたつのアリアを完璧に歌いこなしています。凄いです。人間業とは思えないです。夜の女王もこの人以上の歌手を知らないです。随分前、ホルスト・シュタインが指揮したオペラ映画でドイテコムが夜の女王を歌っているのを観ましたが、やはり素晴らしかったです。
その他の歌手もオールスターとも言って良い、録音当時の人気、実力とも最高の人たちを集めていて、演奏全体のレベルも大変高いです。歌手の中ではタミーノを歌うスチュアート・バロウズがやたら力んだ歌い方で、この人だけがややミスキャストかな、という感じです。
その他ではほんの脇役とも言うべき弁者にディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウが起用されたり、録音当時は多分ほとんど無名だったと思われるルネ・コロが第1の武士役でちょこっと歌っていたりします。ルネ・コロは後にバイロイトに登場したりで、ワーグナーのオペラでは欠かせないくらい人気を呼んだテノールですね。モノスタトスを歌うゲルハルト・シュトルツェの声もこういうキャラクターにピッタリの人です。バイロイトの指輪でも常連でした。
さて肝心のショルティですが、やや硬質な表現の音楽は必ずしもモーツァルトに合っているとは思えませんが、名歌手たちの伴奏役としてはまぁまぁではないかと思います。演奏解釈だけを捉えれば私はカール・ベームの演奏の方が好きです。
しかしドリーム・キャストとも言うべきショルティ盤、クラシック音楽がお好きな方なら是非一度はお聴きになって頂きたい大名盤です。
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