ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」全曲
ジークムント : ヨハン・ボータ
ジークリンデ : エディット・ハラー
フンディング : ヨン・クワンチュル
ブリュンヒルデ : リンダ・ワトソン
ヴォータン : アルベルト・ドーメン
フリッカ : 藤村実穂子
演出 : タンクレート・ドルスト
クリスチャン・ティーレマン指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
2010年8月21日~22日(日本時間)、衛星生中継による
写真はティーレマン指揮による「ニーベルングの指輪」全曲CD BOX (2008年のライヴ収録)
先日ご紹介したバイロイト音楽祭からの「ニーベルングの指輪」四部作の二作目「ワルキューレ」の衛星生中継、他国はともかくとして本邦に於いては放送史上初のバイロイトからの生中継でした。私にとってはちょっとした大事件でして、狂喜してブルーレイレコーダーに録画致しました。生中継は翌日の仕事に差し支えがあるという事で第一幕を見た後、後ろ髪惹かれる思いで床に就き、第二、三幕は休日に見ました。
全曲聴いた(見た)結果から申しますと大変な感動を受けました。いや~・・・本当にもう~素晴らしかったです。指揮者も歌手陣も私にとってはまったく初めての人たちばかりですが、なまじ変な先入観がなかったのが結果的には良かったと思います。昨日はその余韻が残っていて、仕事中もしょっちゅう「ワルキューレ」からのメロディが鼻歌代わりに出て来てしまう始末でした。(笑)
先日も簡単に触れましたがワーグナーが大作「ニーベルングの指輪」を上演するためにスポンサーの支援を受けて自らが建てた祝祭劇場。中継を見るとステージは思ったより狭いものでした。オーケストラはそのステージ真下の穴倉のようなところに入っており、聴衆からはまったく見えません。
「ニーベルングの指輪」のお話し自体はやや突拍子もないところがありますが、台本はワーグナー自身が書いており、北欧神話の題材などを元にしていたそうです。しかし考えてみればこのストーリーは現代のアメリカSF映画そのものみたいで、ワーグナーの「指輪」に影響された映画、漫画が幾つか作られているのですから、ワーグナーはなかなか先見の明があったという事ですね。(^^;
前置きが長くなりました。「ワルキューレ」は指輪四部作の中でも最もドラマティックな音楽で、単独で聴いても聴き応えのある作品ですし、個人的にはワーグナーの作品の中でも一番のお気に入りです。ジークムント、ジークリンデによる抒情的な第一幕も素晴らしいですし、ジークムントとフンディングとの決闘に際し、本心とは正反対の行動を取らなければならなくなった神々の長、ヴォータンの心の葛藤が見どころの第二幕。そしてクライマックスを迎える第三幕。一小節の無駄もない音楽はただただ素晴らしいという形容しか浮かびません。
「ワルキューレ」第三幕の冒頭で聴ける「ワルキューレの騎行」は、ワーグナーを知らなくても、いやクラシック音楽を知らなくても、大抵どこかで一度や二度耳にしているはずの有名な音楽。映画にも良く使われていますね。最近ではタイトルにもなっているアメリカ映画「ワルキューレ(トム・クルーズ主演)」の中でもレコードを掛けるシーンで使われた音楽がこの「ワルキューレの騎行」でした。
今回の「ワルキューレ」でもっとも印象に残った歌手がヴォータン役のアルベルト・ドーメンです。風貌もなかなかヴォータンらしさが出ていましたし、終幕直前の有名な「ヴォータンの告別」はなかなかの名演です。最愛の娘、ブリュンヒルデに罰を与えなければならない苦しい心情を見事に歌い上げていたと思います。
「Leb wohl ! Leb wohl !・・・・(さらば、さらば・・・勇敢なるわが娘よ・・・)」と歌われるこのシーンは単独でも演奏会などで採り上げられたりするほど有名で、「ワルキューレ」の中でも、いや「ニーベルングの指輪」全曲の中でも最も感動的なシーンなのです。今回の放送を見ていて私は目頭が熱くなって来てしまったほど。本当に素晴らしく感動的な音楽です。
この部分は前回ご紹介したハンス・クナッパーツブッシュという不器用ですがワーグナーを振らせたらこの人の右に出る指揮者はいないと言っても過言ではない、大変素晴らしい録音が英デッカに残っているのです。私はもう何十回と聴いていますが全然飽きません。ティーレマンの指揮もクナッパーツブッシュをさすがに超える演奏ではないですが、なかなかの好演でした。
ブリュンヒルデ役のリンダ・ワトソンも頑張っています。この人、容姿が嘗てバイロイトでのブリュンヒルデ役で一世を風靡したビルギット・ニルソンに良く似ています。ジークムント役のヨハン・ボータはその巨漢がジークムントのキャラクターには合っていませんでしたが、声は素晴らしいです。
そしてヴォータンの妻、結婚の女神フリッカにはなんと日本人の藤村実穂子さんが抜擢されて頑張っておりました。神々の長、ヴォータンも奥方には弱くて、フリッカの要望をしぶしぶ飲む羽目になるのが第二幕。どこの世界でも女性は強しですね。(^^;
初めての衛星生中継、一箇所だけ電波の乱れがありましたが、その他はまったく問題がなく、本当に嬉しい放送でした。バイロイトでは幕間の舞台設定の際、聴衆が全員外に出されるという事を今回の放送で初めて知りました。また、オーケストラの団員は客席から見えない舞台の下という事もあって、皆さん燕尾服を着る事無く、実にラフな服装で演奏している事も今回初めて知りました。(笑)
指揮者、クリスチャン・ティーレマンですが、「ワルキューレ」を聴いた限りではなかなか良かったです。今まで一度も聴いた事がない指揮者でしたので、ワーグナーについては収穫でした。
演出については時折意味不明のシーンがあったりしましたが、大きな不満は感じませんでした。
さて、大作「ニーベルングの指輪」全曲、私は全部で六セット持っていますが、演奏だけならやはりクナッパーツブッシュ指揮によるバイロイト音楽祭でのライヴ録音(1956年、独オルフェオ盤)が一番ですね。全部は紹介仕切れませんが・・・、
朝比奈隆指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
1984年6月、1985年10月、1986年4月、1987年10月
いずれも東京文化会館でのライヴ収録
銀座・山野楽器からの発売
この大きなボックスセットは日本人による初の「指輪」全曲盤です。初のと申しましたが、未だに日本人演奏家による「指輪」の録音はこれだけです。一年に一度、コンサート形式による新日フィルの定期演奏会での録音で、今思うと良くやったなぁ・・・という気持ちが残ります。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1966年~1970年 ベルリンでの録音
ポリグラム POCG-90131/44
ご存じカラヤンが自ら主宰したイースター音楽祭で一年に一作ずつ上演した際に平行してスタジオ録音した全曲盤。実は私、カラヤンの「ラインの黄金」が好きで、この演奏があるから全曲盤は手放せないのです。ヴォータン役はミスキャストだと思っていますが。え? 誰かって? それは店頭でご確認下さい。(笑)
ギュンター・ノイホルト指揮
バーデン州立歌劇場管弦楽団
1993年~1995年録音
Bella Musica (14CD)
このCD BOXは以前採り上げましたが、指輪最安値1,670円という激安価格!
尚、上記指揮者名、オーケストラ名はドイツ語表記のジャケットから私がカタカナ表記に変えていますので、正しいかどうか自信がありませんのでご容赦を。
しかし演奏もなかなかのもので、指揮者の解釈だけならカール・ベームが指揮したバイロイト音楽祭でのライヴ録音より私は良いと思っています。ベームは必ずしもワーグナーに向いた指揮者ではないと思っていますので。
ワーグナーの「ワルキューレ」、素晴らしい音楽ですから是非多くの人に聴いて頂きたいです。
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