私の愛聴盤 第3回
ワーグナー・プログラム
歌劇「さまよえるオランダ人」第2幕より
1. ゼンタとオランダ人の二重唱~遠く忘れられた古い時代の中から
楽劇「ワルキューレ」第3幕第3場(全曲)
1. 私の犯したことは
2. お前の晴れやかな心に
3. ヴォータンの告別と魔の炎の音楽
ビルギット・ニルソン(ソプラノ)
ハンス・ホッター(バス・バリトン)
レオポルド・ルートヴィッヒ指揮
フィルハーモニア管弦楽団
1957年11月16-19日 アビーロード・スタジオでの録音(ステレオ)
ウォルター・レッグ(プロデュース)
東芝EMI TOCE-7299 (廃盤)
先日のバイロイトからの「ワルキューレ」に感動してしまった私ですが、数あるワーグナーのCDの中で、実は私の隠れた大愛聴盤をご紹介したくなりまして、それを今日の記事にしました。(笑)
このCD、往年の・・・バイロイト全盛期?・・・ワーグナー歌手とも言うべきビルギット・ニルソンとハンス・ホッターによる「さまよえるオランダ人」と「ワルキューレ」からの二重唱が録音されております。
ドラマティック・ソプラノとしてバイロイトを始め各地の歌劇場で絶大なる人気を呼んだビルギット・ニルソンと、歴代のヴォータン役としては最高の歌手であったと評価の高いハンス・ホッター、この二人によるワーグナー音楽の抜粋です。悪いはずがないでしょ?(笑)
一曲目は「さまよえるオランダ人」からの有名な二重唱。深々とした、それでいて温かみのあるハンス・ホッターのオランダ人は聴きものです。実際のステージではオランダ人役はそれほど演じていないようで、全曲盤がない(多分)のは残念です。ニルソンのゼンタも珍しいのではないでしょうか。
しかし一番の聴きものはもちろん「ワルキューレ」からの第3幕で、第3場が全曲収められています。「ワルキューレ」全曲中、最高の場面がニルソンとホッターで聴けるのですよぉ~・・・。(笑)
簡単にその第3場のシーンをご説明しますと、第2幕でジークムントとフンディング(ジークリンデの夫)の決闘の際、ヴォータンはワルキューレの戦士で愛娘のブリュンヒルデに対し、フンディングに加勢するよう命ずる。しかしブリュンヒルデはジークムントに加担したため、怒ったヴォータンはジークリンデ(ジークムントとジークリンデ、実はヴォータンの実の子)を連れて逃げたブリュンヒルデを追って来る。そして親子の縁を切り、ブリュンヒルデに罰を与えるわけです。ヴォータンはブリュンヒルデを長い眠りに就かせ、その周りを炎で囲む。将来その炎を恐れずにブリュンヒルデを得た者に妻として授けようとするのがエンディングシーン。
ブリュンヒルデを眠りに就かせる前、ワルキューレの戦士の中でも一番可愛がって来た愛娘ブリュンヒルデと縁を切らなくてはならなくなった父親の心境を、しっとりと歌うシーンが「ワルキューレ」最大のハイライトで、「さらば、さらば・・・、勇ましい我が娘よ・・・」と小さい頃から手塩に掛けて育てて来た最愛の娘と、心ならずも縁を切らなければならなくなった複雑な父親の心境を歌うのです。
演奏会などで単独に採り上げられる事も多く、一般にこのシーンを「ヴォータンの告別と魔の炎の音楽」とサブタイトルが付けられています。その複雑な心境を歌うヴォータン役では本CDで歌っているハンス・ホッター以上の人はおりません! まるでハンス・ホッターのためにワーグナーはこの素晴らしい音楽を書いたのではないかと思うくらいです。聴いていると体全体に鳥肌が立って来ます! もう~・・・最適な形容句が浮かびません。とにかく聴いて下さいとしか申せません。
ブリュンヒルデを歌っているビルギット・ニルソンもこれまた大変素晴らしいです! バイロイトでニルソンの前にブリュンヒルデを歌っていたアストリッド・ヴァルナイという人も残された録音を聴く限りこれまた大変素晴らしいのですが、ステレオで録音の残っているニルソンを良い音で聴けるのはワーグナー・ファンとしては嬉しい事です。
ヴォータンに追い掛けられ、父の激しい怒りにおずおずと父の前に登場し、「私の犯した事はそんなに恥ずべき事だったのでしょうか・・・」と歌い始める第3場。ブリュンヒルデは父ヴォータンの本心を父に代わり行動したのに、何故私を責めるのかと問う。ズバリ言われたヴォータンは動揺しながらも本心を隠し、「何故私の気持ちが分からないのだ」とブリュンヒルデを責める。
この二人の心理描写がこの第3幕第3場、最高の聴きどころなのです。それを歴代最高のブリュンヒルデとヴォータンと評されるニルソンとホッターで聴けるのがこのCD。もう何回聴いているか自分でも分かりません。しかしそういう名盤でありながら現在は廃盤のようです。
今日ご紹介した私が所有するCDの発売年は1991年8月となっています。その後、再発売されていないかamazonで調べてみたら2000年9月に再発売されておりました。
新品を1枚だけ出品している業者があるのですが、価格を見てビックリ! なんと9,980円ですって!
プレミア価格とはいえ、9,980円ですかぁ・・・。しかし内容はホントに素晴らしいだけに、或る意味出品している業者も中身を良くご存じ・・・と少し褒めて挙げたい気持ちも・・・(笑)
ちなみに私のCDの価格は税込み1,800円です。当時の廉価盤価格というところでしょうか。
最後に指揮者のルートヴィッヒですが、クナッパーツブッシュほどスケールは大きくありませんが、さすがドイツの歌劇場での実績があるせいか手堅くワーグナーの音楽をまとめています。
このCDは是非多くの音楽ファンにお聴き頂きたいのですが、廃盤とは・・・残念です。本当に・・・本当に・・・素晴らしい演奏なのに・・・。
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こういう録音があったとは初めて知りました。特にホッターのオランダ人は興味深いですね。
しかしワルキューレの3幕、私の持っている1956年のクナッパーツブッシュ指揮のバイロイトも、ホッター全盛期のあの神々しい歌声に痺れます。ヴァルナイとニルソンだと若干ニルソンが上ですかね~。フラグスタートとホッターは、活動時期が重なっていないので、やはりこの二人の組み合わせがベストということなんでしょうか。
投稿: rsw250 | 2010年8月30日 (月) 02時57分
おはようございます。
ストーリーも面白そうですし、熱のこもった解説に思わず引き込まれました(^^) この大絶賛のCDが廃盤とは残念です。本もすぐに絶版や品切れになるし、CDもすぐに廃盤になるので、欲しいものは躊躇せずに手に入れておかないといけないですね。
投稿: kouko | 2010年8月30日 (月) 07時16分
rsw250さん、おはようございます。
このCD、お持ちではなかったですか。音源では1956年バイロイトのクナッパーツブッシュがやはり最高ですが、私の好きなシーンを手軽に取り出して聴ける一枚ものの本CD、手放せないです。
フラグスタートも素晴らしい声で私も大ファンです。ただおっしゃるように活動時期の違いでこのふたりの共演を聴けません。そういう意味でも今日のCDは貴重な録音だと思います。
投稿: KONDOH | 2010年8月30日 (月) 07時23分
koukoさん、おはようございます。
どうも自分の好きな音楽、映画の事になると止まらなくなってしまいます。これでもかなり端折ったつもりなのですが。(笑)
しかし日本はCD、書籍の廃盤、絶版は早いですね。ホントに発売された時に買わないと直ぐに入手困難になりますから。
投稿: KONDOH | 2010年8月30日 (月) 07時25分
ご無沙汰しました。
養生していたこの数ヶ月、外に出ることが少なかったのでクラシックのCDが異常繁殖してしまいました。(笑)
そんな時に物欲を煽った‥否為になったのがKONDOHさんの過去ログ。勉強させてもらいました。
これからもよろしくお願いします。
投稿: Kenclip | 2010年8月30日 (月) 17時36分
こんばんは。
ご紹介のCDはもちろん持っていませんが、ホッターの絶頂期のものですから、ショルティ盤よりも良いんでしょうね。
逆にニルソンはショルティ盤が絶頂期でしょうか。
でも、いずれにしても、最高レベルでの比較ですから、私には善し悪しはわかりませんが。
個人的には、ブリュンヒルデはヴァルナイが好きですが。
投稿: yymoon | 2010年8月30日 (月) 22時08分
Kenclipさん、こんばんは。
お体、回復されたのでしょうか? まだまだ暑い日も続きますので、どうぞご用心下さいませ。
ところでCDが異常繁殖されたそうで・・・。ご同慶の至りです。(^^;
音楽はやはり良いですよねぇ・・・。CDが売れなくなっているそうですが、どうして音楽を聴かない人が増えたのか・・・。
投稿: KONDOH | 2010年8月30日 (月) 22時43分
yymoonさん、こんばんは。
歌手の場合はピークはそう長くありませんですから、絶頂期の録音は貴重ですね。ニルソンは現役終わり近くに一度「エレクトラ」で生に接していますが、もの凄い声量でした。
ヴァルナイのブリュンヒルデも素晴らしいですね。50年代から60年代は素晴らしい歌手が輩出していたわけで、まさに黄金時代と言っても良いのでしょう。
投稿: KONDOH | 2010年8月30日 (月) 22時46分
こんばんは。
このCDは記憶がありませんでした。たぶん、抜粋版だからと見落としていたんでしょう。聴いてみたいですが、廃盤とは・・・(;。;)。
ホッターのオランダ人ですが、1944年3月バイエルン歌劇場でのライブ録音がCDで出ていました。時期が時期ですので、ホッターとゼンタ役のUrsuleac 以外の歌手はパッとしませんが、指揮はクレメンス・クラウス。全体的には見事な演奏だと思います。
原盤はPREISERなので、また復刻されているかも知れませんね。
投稿: kv492 | 2010年8月31日 (火) 00時04分
kv492さん、こんばんは。
確かにパッと見には抜粋版と見られても不思議はないですね。この音源は案外知っている人が少ないのかもしれませんねぇ・・・。
ホッターのオランダ人、1944年の録音があるのですかぁ・・・。戦中ですね。最近は古い録音の著作権が切れて結構頻繁にいろいろな録音が発売されるようになりましたねぇ。以前は海賊盤しかなかった音源も正規ルートで出るようになって来ましたし。有り難い時代です。
投稿: KONDOH | 2010年8月31日 (火) 00時12分
こんにちは。
11年も前に書かれたのですね、小生は、未だネットに関わっていなかったかも・・・。
該博な知識に裏打ちされた記事で読みごたえがあります。
世の中広いのですね~。
投稿: Analog親爺 | 2021年11月 6日 (土) 10時35分
Analog親爺さん、こんにちは。
この録音はワーグナー好きでないと案外知られていないのではないかと、勝手に思っております。
ヴァルナイ、フラグスタート、ニルソンと、当時はワーグナー・ソプラノと呼んでも良い、優れた歌手が排出していた良い時代だったのではないでしょうか。
貴重なアナログ盤をお持ちで羨ましいです。
投稿: KONDOH | 2021年11月 6日 (土) 10時41分