英DECCA盤のEDって何?(笑)
ベートーヴェン/交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱」
ジョーン・サザーランド(ソプラノ)
マリン・ホーン(メゾ・ソプラノ)
ジェイムズ・キング(テノール)
マルッティ・タルヴェラ(バス)
ハンス・シュミット=イッセルシュテット 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
英DECCA SXL6233(ED3)
比較的地味な指揮者、ドイツ出身のハンス・シュミット=イッセルシュテットが指揮したベートーヴェンです。常任指揮者を置かない主義のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ですが、ステレオでベートーヴェン交響曲全集を最初に録音した指揮者がハンス・シュミット=イッセルシュテットでした。
以前、「スーパー・アナログ・ディスク」のコーナーで第9番と第8番を組み合わせた2枚組(一番下のジャケット写真)をご紹介しましたが、その時に第8番についてはイッセルシュテットの演奏が一番素晴らしいと述べているように、奇を衒うところのない解釈が第8番に上手くハマったのだと思います。勿論その他の交響曲も安心して聴けるのが何よりです。
で、今日はイッセルシュテットの指揮ぶりを話題にするのではなく、英DECCAが発売していたレコードの事についてです。
時々訪れていた或るオーディオマニアの方のブログを見ていたら、コレクションしている2千枚ほどのレコードはすべてオリジナル盤との事。凄い方ですね。その方も私と同じくクラシックとジャズをお聴きになっていらっしゃいます。
過去の記事でヴァイオリンのチョン・キョンファさんのオリジナル盤(バッハのパルティータ)が凄いとおっしゃっており、英DECCAのレコードについて語っておられたのです。
ベートーヴェン/交響曲第4番 変ロ長調 作品60
ハンス・シュミット=イッセルシュテット 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
英DECCA SXL6274(ED4)
私が持っているチョン・キョンファさんの英DECCA盤の中にバッハのパルティータは無いので、実に羨ましく思ったものです。英DECCA盤ですが、オリジナル盤愛好者は基本4つの世代に分けています。その4つの世代を・・・、
ED1、ED2、ED3、ED4と呼んでいます。誰がこうしたエディションに分けたのでしょうかねぇ? 中古ショップ? 私が気が付いたのは昨年でした。中古店の人に訊くのは恥ずかしいので、ネットでいろいろ調べたわけです。
ED1はレコードのセンターレーベル左上から「ORIGINAL RECORDING BY」と、時計の12時方向へ印刷してあり、円に沿って深い溝が有ります。ステレオ初期から始まるSXL2000番台すべてとSXL6220前後迄とされています。
ED2は「ORIGINAL RECORDING BY」が「MADE IN ENGLAND BY」に変わり、レコード番号SXL6368くらい迄。ED1とED2は「ラージデッカ溝有り」とも呼ばれています。
ED3はED2とレーベルデザインはまったく同じですが、溝が有りませんので「ラージデッカ溝無し」と呼んでいます。SXL6448くらい迄。
ED4はセンターレーベルの直径がED1、ED2、ED3より小さいので「スモールデッカ」と呼ばれており、「MADE IN ENGLAND」が四角いDECCAマークの左上に印刷されています。レコード番号はSXL6449からSXL6912迄とされています。
英国プレスはここ迄で、以後はオランダプレスになります。多分、オランダプレスはPHILIPSの工場ではないかと想像します。若い番号のオランダプレスも当然有ると思いますが、何度目かの再プレスという事になります。既にCD時代で、レコードの需要が急降下して来た時代ですね。
ところで溝あり、溝なしって何? と思われた方、以前ご紹介したジャズのブルーノートレーベルが分かりやすいと思います。↓ これです。
レーベル外周から少し内側に丸い太い溝がご覧頂けると思います。「溝有り溝無し」はこの溝が有るか無いかを言っているのです。当時使われていたプレス機はプレスの際、盤をしっかり固定するために丸い歯のようなものを食い込ませていたそうで、その名残りです。機械が改良されて以降は無くなりました。
これがED3のセンターレーベルです。ED2と同じデザインで左上から12時方向へ「MADE IN ENGLAND BY」と印刷されていますが、溝が有りません。「ラージデッカ溝無し」です。
このイッセルシュテットのベートーヴェンは年代、レコード番号から初版はED2と思われます。ですから私の盤はマニアが言うオリジナル盤ではありません。まぁ、初期盤と呼ばれる一枚でしょうね。
そしてこちらがED4のセンターレーベルです。「MADE IN ENGLAND」が四角く囲まれたDECCAマークの左上に印刷されています。このレコードも初版はED2と思われます。中古店によってはプライス票にEDを表示しているところが在るので、親切です。もっともそれで私は知ったわけですが。
ここまでは世代分けの話しでした。オリジナル盤信奉者にとってED分けは勿論の事ですが、まだまだ拘るところが有るのです、実は。
それは何かと申しますと、「マトリックス番号」です。
マトリックス番号はレコードをプレスするためのメタルマザーに付けられる番号の事です。当然「1」が一番最初に作られたメタルマザーですから、一番音が良いとされています。ビートルズのレコード、「マト1」の初期オリジナル盤などは目が飛び出るような金額になるらしいです。オーディオ誌のステレオとモノラル聴き比べの中で記述がありました。
では、そのマトリックス番号はどこで見るのか? それはDEADWAXに印字されています。DEADWAXとは、針が音溝を再生し終わると、レーベル方向へ行ったり来たりする、あの空白部分のところです。
ちなみに上記の第9番のレコード、A面には「ZAL-7143-20G」と印字されています。DECCAの場合、頭の「ZAL」はステレオを意味します。モノラルは「ARL」です。次の4桁の数字は使われたマスターテープの番号。ハイフンの次がマトリックス番号になるのです。私のレコード、A面が20枚目のスタンパー、B面は30枚目のスタンパーからプレスされていますので、オリジナル盤愛好者からは鼻も引っ掛けてくれません。(笑)
ですが、購入金額が千円でお釣りが来たレコードですから文句は言えません。
マトリックスが20、30番にまで及ぶという、如何にクラシックがジャズとは比較にならないくらい売れているか、お分かり頂けると思います。
隣の「G」はカッティングしたエンジニアの頭文字です。エンジニアの頭文字の右隣に「R」が付いていた場合はイコライザーカーブがRIAAでカッティングされている意味になります。無い場合はDECCAオリジナルの「FFRR」でカッティングされている事になりますが、1970年代中期以降はRIAAに統一されたという事らしいです。(DECCAのエンジニアだった人の談話)
ただ、1960年代のレコードでもRIAAでカッティングされたものが有りますので、DECCAのレコードは聴いて確かめる必要がありますね。「R」の有る無しもあまり当てに出来ないかもしれません。
今日の4番と9番は間違いなくFFRRでカッティングされています。RIAAで再生すると低域が大きく膨らんで高域は少々弱いです。例のLUXMAN製真空管可変イコライザーを通して低域を-3〜-5bB、高域を+2dBに調整すると見違えるような音になり、如何にも英DECCAらしい鮮鋭な音に変わります。
真空管可変イコライザーを購入した理由は、上流でイコライザーカーブを調整出来るからです。アンプのトーンコントロールで調整するのとでは一味違います。アキュフェーズさんのフォノイコライザーは価格の上下関係なくRIAAのみの対応なのが残念です。1970年代以降の新しいステレオ録音しか聴かない人には関係ない話しですが。
第9番のスーパー・アナログ・ディスク(キングレコード)です。日本でカッティングされていますから、英DECCAのオリジナルマスターテープのコピーを使用しているわけで、厳密に鮮度だけを考慮すると当然負けます。ステレオサウンド社から発売されたショルティのリング4部作もキングレコード所有のテープからSACD化されたそうで、あまり煩い事を言い出すとキリが有りません。
では、ED3の英DECCA盤とスーパー・アナログ・ディスクとで聴き比べた結果は?
ご想像にお任せ致します。
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