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ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番 ハ短調
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
カール・ベーム 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1977年11月、ウィーン・ムジークフェラインザール
独グラモフォン 2531 057
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 ト長調
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
カール・ベーム 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1976年6月、ウィーン・ムジークフェラインザール
独グラモフォン 2530 791
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 変ホ長調
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
カール・ベーム 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1978年5月、ウィーン・ムジークフェラインザール
独グラモフォン 2531 194
ベートーヴェンのピアノ協奏曲シリーズ、今日はマウリツィオ・ポリーニのピアノにカール・ベームがサポートしている録音です。コンサート映像も残されておりますね。
正確無比というイメージを持っているポリーニのピアノですが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを順次購入しては聴いてみたものです。しかし、その完璧過ぎる演奏に結局は馴染めずに終わりましたが、非常に上手いピアニストだなぁ・・・という印象だけは持ちました。
今日ご紹介する三枚の協奏曲も完璧です。ただ、協奏曲の場合は当然の事ながらオーケストラとの協奏ですから終始ピアノだけを聴いているわけではないので、楽曲そのものは充分楽しめます。
というより、お見事と拍手したいくらいのポリーニのピアノもオケが協奏していると名曲名演として聴く事が出来ますね。不思議です。
協奏曲を指揮するベームもさすがです。やはりソリストに良い刺激を受けるのでしょうか。モーツァルトも良かったですが、このベートーヴェンも素晴らしいサポートであります。
※(4月29日朝追記)昨日、アクセスカウンターが4並びの「オール4」になった瞬間があったようです。まるで私の通信簿みたい。もちろん10点法での話しです。(爆)
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 ト長調
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
クレメンス・クラウス 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1951年5月
英DECCA LXT 2629
バックハウスによるベートーヴェンのピアノ協奏曲はステレオ録音(イッセルシュテット指揮)の方が一般的で、私自身も通常バックハウス盤を聴く場合はステレオ盤で楽しんでおります。しかし、今日ご紹介するのはモノラル録音の方です。
指揮は往年の名指揮者、クレメンス・クラウス。クラウスと言えばウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートの創始者であり、ウィンナ・ワルツ大好き人間の私にとっては馴染み深い指揮者でもあります。とは言っても残された録音を聴いているだけでありますが。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲は全五曲とも名曲ですが、通常親しまれているのはやはり第3番から第5番までの三曲だと思います。第4番はそれまでの協奏風ソナタ形式のお約束事を破り、いきなりピアノ独奏で第一主題が奏されるという名曲ですね。
このバックハウスとクラウスによる第4番も名演です。後年のステレオ録音時と違いバックハウスのテクニックは万全で、勢いがあります。しかし、指先に任せてバリバリ弾いているだけではもちろんありません。第二楽章などは実に情感豊かです。
クラウスの指揮ぶりも良いですね。良い意味でのこれがウィーン風なのでしょうか? 私が一番に好んでいるシュタインとはまた違う良さを感じます。
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 変ホ長調
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
クレメンス・クラウス 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1953年6月
英DECCA LXT 2839
こちらの「皇帝」も堂々たる演奏であります。バックハウスの指先も「皇帝」でこそ一段と発揮されております。お馴染み第一楽章冒頭、オケによる変ホ長調の和音が強奏された直後に現れるピアノ、バックハウスの煌びやかと評したくなる見事な演奏からもう惹き込まれてしまいます。
その後を引き継いで主題を提示して行くウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による美しい演奏。クラウスの溌剌とした指揮がここでもお見事です。他の作曲家の協奏曲でも言える事ではありますが、中でもベートーヴェンの協奏曲はバックのオケ次第で聴き応えがまったく変わってしまいます。
この場合の「オケ次第」というのは「指揮者次第」という意味であります。そういう意味ではクラウスも見事なベートーヴェンを聴かせてくれます。
バックハウスによるベートーヴェンのピアノ協奏曲、一般的にはステレオ盤を推奨しますが、モノラル録音の方も聴き逃せませんですよ。
モーツァルト
ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488
ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮)
イギリス室内管弦楽団
録音 : 1967年1月、ウィーン
英EMI ASD 2318(初出)
バレンボイム若き日のモーツァルトですが、今日は有名曲のカップリング。比較的早めのテンポで割とあっさりとした解釈で進めて行きますが、現在のバレンボイムだとまた少し違う演奏になると思います。
演奏としては第20番より第23番の方が自分の好みです。第二楽章はもう少しじっくりと歌わせるような解釈ですと一段と楽想が活きるように思うのですが、そこは若さでしょうか。
モーツァルト
ピアノ協奏曲第10番 変ホ長調 K.365(2台のピアノのための)※
ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
エミール・ギレリス(ピアノ)
エレーナ・ギレリス(ピアノ)※
カール・ベーム 指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1973年9、11月、ウィーン
独グラモフォン 2530 456
2台のピアノのための協奏曲は以前、イモージェン・クーパーとアルフレッド・ブレンデルの演奏をご紹介済みですが、今日の盤はギレリス親子の共演です。ギレリスのお嬢さん、エレーナの演奏はこのレコードでしか聴いた事がありません。
調べてみたらエレーナは何と47歳(1996年)で病没しておりました。父のエミール・ギレリスはウクライナのオデーサ(オデッサ)生まれです。
しかし、この2台のピアノのための協奏曲はなかなか楽しい曲です。以前、NHK-BSでアルゲリッチとバレンボイムによる2台のピアノのためのソナタを集めた演奏が放送されましたが、モーツァルトの遊び心が横溢した名曲であり演奏でした。
さて、このレコードはバックがベーム指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ですから何の不満もありません。第27番はバックハウスと共演した演奏が何より素晴らしい事は何度も申しておりますが、こちらのギレリスも名演だと思います。そして、第27番でのベームは格別であります。
一昨日からニュースで報じられているのでどなたもご存じの事と思いますが、ウトロ港から出航した知床遊覧船が消息を絶ちました。
悪天候になる事を承知で出港してしまったそうですが、コロナ禍の影響で観光客も激減していたと思いますから第三者の私がとやかく言う事は出来ません。
私は過去、知床半島ではウトロ港(オホーツク海側)からの遊覧船に二回、羅臼港(太平洋側)からの遊覧船にも二回乗っています。ウトロ港からは二回とも夏、羅臼港からは二回とも秋でした。更に真冬、網走港からの流氷船に一回乗っています。
羅臼港からの遊覧船はクジラ、シャチ、イルカを見る事が目的ですが、ウトロ港からの遊覧船は知床半島(オホーツク海側)の景観を見る事が目的です。運が良ければカムイワッカの滝が注ぐ海辺でヒグマを見る事もあります。
当然の事ながら何事もなく下船しておりますから、一昨日の事故に心を痛めております。
船首部分から浸水した遊覧船(観光船)はウトロ港から出港し、知床岬突端まで観光して戻る最長コースだったようです。
まだまだ知床の海は冷たいです。発見された乗船客の方々は既に意識がなかったそうですから言葉がありません。
早く全員が見つかって欲しいものです。
※ 冒頭写真の船は事故とは何ら関係ありません。
金属に煌めく瞬間。
こうした逆光を良く撮影しています。好きなので。
ライトアップも綺麗ですね。
余談ですが昨日、テレビ朝日のニュース番組を見ていたら、松尾由美子アナがウクライナのブチャで一般市民を殺戮したロシア部隊の勇気を称え、プーチン大統領が名誉称号を授与したというニュース原稿を読んだ後、次のニュースを読もうとした瞬間、涙を浮かべて原稿が読めなくなってしまいました。
そうしたら松尾由美子アナは、「ごめんなさい、授与のニュースを悔しい思いで読んでしまいました」と、涙ぐみながら謝るところを偶然見ていました。
ニュース原稿を読むアナウンサーは常に冷静でいなければならないとは思いますが、昨日の松尾由美子アナを責める事は出来ませんよね。
オーディオ&ヴィジュアル雑誌「HiVi」の表紙をお借りしました。
4月号は「ディスク愛」という特集で、映像と音楽ディスクのコレクターを紹介しておりました。今は音楽も映像もネット配信を利用する方が増え、市販ディスク(CD、Blu-ray)の売り上げが停滞している現状です。
停滞と言うより、実際は年々売り上げが右肩下がりになっているのではないかと思います。そういう中、今でもディスクという形態のメディアを実購入して音楽、映像を楽しんでおられる方もまだまだ沢山いらっしゃいます。何より私自身も未だにディスクの購入が止められません。
自分の音楽ディスク遍歴はアナログレコードからほとんど全面的にCDに変えた時期がありまして、その際にレコードの国内盤と秋葉原の石丸電気さんで購入した輸入盤のかなりの量を手放しております。聴くのは便利なCDオンリーになったわけです。
ただ、クラシックのオリジナル盤(初期盤)ブームが来る遥か前、中古店で見掛けたペラジャケットのヨーロッパ盤が国内盤中古より安く売られていた頃、これらはジャズレコードコレクターが言う「クラシックでのオリジナル盤なのかも?」と思い、その頃に買い集めたヨーロッパ盤は売らずに残しておりました。
そうしたオリジナル盤(初期盤)は購入したものの聴く事はほとんどなく、コレクションしているだけでした。理由はCDで聴いているからです。ですが、某ショップにCDの処分に訪れた際、査定を待つ間にジャズのエサ箱を暇潰しに見ていたら、昔欲しいと思っていたクラーク・テリーの米impulseオリジナル盤と遭遇。
プライス票には3,000円という表示。レジで検盤させてもらったらジャケット、盤とも大変状態が良く、CDを処分しに行って帰りはそのクラーク・テリーの米impulse盤をお持ち帰りという・・・(^^;
それが切っ掛けでアナログレコード熱が復活。前述したように、購入してみたものの聴いていなかったクラシックのオリジナル盤(初期盤)を少しずつ引っ張り出して聴いているのが現在の自分です。時々は中古ショップを覗いて良い出遭いがあれば購入という。
まさに「ディスク愛」であります。
但し、クラシックは一枚の購入上限を1,500円と決めています。クラシックはジャズとは違い発売枚数が圧倒的に多いので、オリジナル盤の希少価値はジャズほどではないからです。
雑誌の表紙に写っているのは、ご自宅で200インチスクリーンにプロジェクターで映画を投写して楽しまれていらっしゃる、映像関係がお仕事の方のコレクションです。Blu-rayディスクが大変な枚数ですね。
中古レコードですが、都内有名店も時折覗く事はありますが、穴場は歌謡曲、演歌、アイドル、ロック等、オールジャンルを扱う小さなショップの片隅に設けられている「クラシック・オール500円」といったエサ箱に旨味があります。私はそのショップで予期しないオリジナル盤に遭遇しています。場所はお教え出来ませんが。(^^;
ですから通販サイトの価格は私から見たら・・・以下自粛。
しかし、一時はアナログレコードを大量処分してCD(現在はほとんどリッピングして売却済み)に切り替えたのに、またチビリチビリとアナログレコードが増えています。ホントにアホですね。(^^;
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集
DISC 1
ピアノ協奏曲第1番 ハ長調
DISC 2
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調
合唱幻想曲 ハ短調 ※
DISC 3
ピアノ協奏曲第3番 ハ短調
DISC 4
ピアノ協奏曲第4番 ト長調
DISC 5
ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
ベルナルト・ハイティンク 指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ロンドン・フィルハーモニー合唱団 ※
録音 : 1975年11月(1, 3)、1976年1月(4)、1976年3月(5)、1977年4月(2, ※)、ロンドン
蘭PHILIPS 6597 017/021(5枚組)
今日はアルフレッド・ブレンデルのピアノによるベートーヴェンのピアノ協奏曲をご紹介。ブレンデルは同一の指揮者との全集を三回、蘭PHILIPSに録音しておりますが、ハイティンクとの全集が蘭PHILIPSでの最初の録音となります。この後、ジェイムズ・レヴァイン、サイモン・ラトルと録音を繰り返しています。
ハイティンク、レヴァイン、ラトル、いずれも私が好む指揮者ではありません。なのでレヴァイン、ラトルとの全集は未聴であります。では何故ハイティンクとの全集を購入したのか?
大分前になりますが、箱入り5枚組セットのこの全集が僅か1,500円というプライスで中古ショップのエサ箱に入っていたのです。1,500円なら聴いて気に入らなかったら売却すれば良いかぁ・・・と思い、購入したわけです。ちなみに盤は前所有者は聴いていたのだろうか?と思うくらい綺麗で、5枚すべて変なノイズはありませんでした。蘭PHILIPSらしく、盤質も良いです。
ハイティンクは昨秋、お亡くなりになりましたが、ニュースでは「巨匠」と呼ばれておりました。これは個人的感想になりますが、私はハイティンクを巨匠と一度も思った事はありません。
蘭PHILIPSでの録音量は相当なものですが、身銭を切って購入したベートーヴェンの交響曲全集、ブルックナーの交響曲全集その他、一曲たりとも感動した事はありません。私はもっとも凡庸な指揮者と見ておりました。
引退直前のウィーン・フィルと演奏したブルックナーの交響曲第7番も何の感動もありませんでした。第二楽章で相変わらずのハイティンク節が聴こえた時は興醒めでした。私が言うハイティンク節とは妙なアクセントやリズムの強調で、私とはとにかく相容れない指揮者なので、ハイティンクファンの皆様、どうぞご容赦を。
さて、ブレンデルのピアノは相変わらずの中庸的解釈の演奏です。同じくベートーヴェンのピアノ・ソナタでも同様の解釈ですね。誤解のないよう申し添えますが、中庸とは良い意味で言っております。ピアノ・ソナタ「テンペスト」ではブレンデルの演奏に大きな感動をもらっていますので。
変に楽曲を捏ねくり回して自分の個性を表現しようとするのではなく、ダイナミクスやルバートも「なるほど」と、こちら聴き手側を上手い解釈だと納得させてもらえる演奏と言ったら良いでしょうか。
ですが、ところどころで・・・例えば第1番第一楽章の展開部から再現部に入る直前、ブレンデルにしては力強い打鍵に「おぉ!」と少し驚かしてくれる解釈も其処彼処で聴く事が出来ます。
ハイティンクの指揮ぶりはただの伴奏の域を出ておりません、残念ながら。あ、このセットはまだ手元にあります。
プロデュース : ジョン・カルショウ
エンジニア : ケネス・ウィルキンソン
ワーグナー/舞台神聖祝典劇「パルジファル」全曲
パルジファル : ヴォルフガング・ヴィントガッセン(テノール)
グルネマンツ : ルートヴィヒ・ウェーバー(バス)
クンドリ : マルタ・メードル(ソプラノ)
アンフォルタス : ジョージ・ロンドン(バリトン)
ティトゥレル : アーノルド・ヴァン・ミル(バス)
クリングゾル : ヘルマン・ウーデ(バス)
第1の騎士 : ヴァルター・フリッツ(テノール)
第2の騎士 : ヴェルナー・ファウルハーバー(バリトン)
第1の小姓 : ハンナ・ルートヴィヒ(ソプラノ)
第2の小姓 : エルフリーデ・ヴィルト(ソプラノ)
第3の小姓 : グンター・バルダウフ(テノール)
第4の小姓 : ゲルハルト・シュトルツェ(テノール)
ハンス・クナッパーツブッシュ 指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
1951年7月、8月、バイロイト祝祭劇場でのライヴ録音
独DECCA NA 25 045-D/1-5(5枚組)
先日ご紹介した「神々の黄昏」と同じく、戦後初めて再開された1951年バイロイト音楽祭でのライヴ録音です。実際は上演とゲネプロを収録し、それらを編集してマスターテープとしているようです。
クナッパーツブッシュはこの年から1953年を除き、亡くなる前年の1964年まで毎年「パルジファル」を指揮しています。過去、非オーソライズ盤ではありますが各年のライヴ盤が発売されていましたし、蘭PHILIPSには1962年の正規ライヴ録音が残されておりますから、「パルジファル」と言ったらクナッパーツブッシュというくらい有名ですね。
「パルジファル」はキリスト教に基づく「聖杯伝説」を題材にした作品で、クリングゾル(邪悪な魔法使い)に奪われた「聖槍」で傷つけられたモンサルヴァート城のアンフォルタス王とクンドリ(クリングゾルの手先き)をパルジファル(無垢で愚かな若者)が救済する物語です。
「救済」というテーマはワーグナー作品すべてに扱われていて、特に女性が自身の身を死をもって神に捧げ、愛する男性を救済するという「さまよえるオランダ人」のような作品もあります。
ですからワーグナーはモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」のような好色な男を主人公にした作品と、男女のくだらない茶番劇の「コシ・ファン・トゥッテ」を評価していなかったようです。「パルジファル」はワーグナー自身で建造したバイロイト祝祭劇場以外での上演を禁じる事を遺言に残しておりましたが、著作権が切れてからは世界各地で上演されております。
「パルジファル」の歌手陣は「神々の黄昏」とほぼ変わりませんので、戦後のバイロイトを代表する歌手たちだったのでしょうね。ヴィントガッセンのパルジファル、ウェーバーのグルネマンツは安心して聴いていられます。何よりクンドリを歌うマルタ・メードルが実に素晴らしい! 1962年盤のアイリーン・ダレスより声も歌唱力も上回っていると思います。
一般的にはステレオで収録された1962年の蘭PHILIPS盤が「パルジファル」の代表盤になると思います。1962年盤も所持しておりますが、今日の1951年盤も名演です。音はモノラルですが、録音エンジニアがケネス・ウィルキンソンですから抜かりありません。「神々の黄昏」と同じく素晴らしい録音です。
ワーグナーはハンス・クナッパーツブッシュという事を再認識させる名盤であります。
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
ミシェル・シュヴァルべ(独奏ヴァイオリン)
ヘルベルト・フォン・カラヤン 指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団員
録音 : 1972年8月、スイス・サンモリッツで録音
独グラモフォン 2530 296(初出)
前回、イ・ムジチ合奏団によるヴィヴァルディの超有名曲「四季」をロベルト・ミケルッチ独奏の録音でご紹介しましたが、今日はカラヤン盤をご紹介。
あのカラヤンがヴィヴァルディの「四季」を?
と思われるかもしれませんが、カラヤンは何と二回も録音しております。一回目は今日の録音で、独奏ヴァイオリンはベルリン・フィルのコンサートマスターであるミシェル・シュヴァルべです。二回目は英EMIにアンネ=ゾフィー・ムターの独奏で1984年に録音しております。
この頃はベルリン・フィルとの確執が進み、オケはウィーン・フィルです。前年、女性クラリネット奏者のザビーネ・マイヤーの入団を巡り、反対するベルリン・フィル側と険悪な関係になっています。当時、ベルリン・フィルとウィーン・フィルは団員に女性は入れておりませんでしたからね。ジェンダー平等の現代では有り得ない確執ですが。
ベルリン・フィル楽団員との録音をご紹介する目的はジャケット写真が素晴らしいからです。リンゴで四季を表現しているこの写真はアイデアが素晴らしいと思うのです。
カラヤンのレコードはカラヤン自身のポートレートをジャケット写真に使った方が売れる、という考えをレコード会社は持っていたわけですが(当然ですね)、カラヤン自身は自分の写真が使われる事をあまり望んではいなかったようです。
で、カラヤンのポートレートが使われていないジャケットの中でも、この「四季」のジャケットは秀逸な一枚だと思い、今日ご紹介させて頂きました。
こちらはジャケット裏です。表にカラヤンを使わなければ裏に、という事でしょうか。
演奏については意外や意外、奇を衒う事のない実にオーソドックスな演奏なのです。超有名盤、フェリックス・アーヨ独奏のイ・ムジチ合奏団による演奏の延長上にあるような解釈で、「四季」の楽曲そのものを安心して聴く事が出来ます。
シュヴァルべの独奏も申し分ないですし、私は結構好きな「四季」の録音であります。
カラヤンは毎年、避暑のためにサンモリッツの別荘で夏を過ごしていたそうですが、商魂逞しい独グラモフォンはベルリン・フィルの楽団員をサンモリッツに集め、編成が少なくて済む楽曲を録音し、レコードにして発売しておりました。今日の「四季」もまさにそうした時期の録音なのです。
「楽壇の帝王」と呼ばれたカラヤン、何処にいても休まる事はなかったのでしょうね。
- 英DECCA 正規ライヴ録音(於 バイロイト)-
プロデュース : ジョン・カルショウ
エンジニア : ケネス・ウィルキンソン
ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」全曲
ブリュンヒルデ : アストリッド・ヴァルナイ(ソプラノ)
ジークフリート : ベルント・アルデンホフ(テノール)
ハーゲン : ルートヴィヒ・ウェーバー(バス)
グンター : ヘルマン・ウーデ(バリトン)
グートルーネ : マルタ・メードル(ソプラノ)
アルベリヒ : ハインリヒ・プフランツェル(バス)
ヴァルトラウテ : エリーザベト・ヘンゲン(メゾ・ソプラノ)
- 3人のラインの乙女 -
ヴォークリンデ : エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
ヴェルグンデ : ハンナ・ルートヴィヒ(ソプラノ)
フロスヒルデ : ヘルタ・テッパー(メゾ・ソプラノ)
- 3人のノルン(運命の女神)-
第1のノルン : ルート・ジーヴェルト(アルト)
第2のノルン : イラ・マラニウク(メゾ・ソプラノ)
第3のノルン : マルタ・メードル(ソプラノ)
ハンス・クナッパーツブッシュ 指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
1951年8月4日、英DECCAによるバイロイト祝祭劇場でのライヴ録音
英TESTAMENT SBTLP 6175/80(6枚組 正規初出)
戦後、バイロイト音楽祭がようやく再開されたのが1951年。例のフルトヴェングラー指揮によるベートーヴェンの第9交響曲が再開記念として演奏されたのが7月29日、そして今日ご紹介の「神々の黄昏」が演奏されたのは8月4日です。
この再開の年、ハンス・クナッパーツブッシュとヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮による2サイクルで「ニーベルングの指環」が上演されており、ジョン・カルショウ率いる英DECCAの録音チームはクナッパーツブッシュによるサイクルの「ニーベルングの指環」を録音しているのです。
カラヤンと専属契約を結んでいる英EMIは翌1952年以降にカラヤンの「ニーベルングの指環」を録音する予定だったそうですが、1952年の「トリスタンとイゾルデ」を最後にカラヤンはバイロイトと袂を分かつ事になり、結局英EMIはカラヤンの「指環」を録音し損なっています。再開年の1951年は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の録音に力を入れていたわけです。
当初バイロイトとの録音契約を巡り、英EMIと英DECCAとで熾烈な争いをしていたようで、英EMIが正式な録音契約を結んだようです。しかし、諦めきれないジョン・カルショウは記述によるとワーグナー家に黙認してもらう形でクナの「指環」の録音を決行。発売権に関しては会社の方の尽力に任せる形を取ったようです。
カルショウによると初日の「ラインの黄金」はクナッパーツブッシュに冴えがなく、「ワルキューレ」はヴォータンの出来が悪いし、聴衆のノイズやプロンプターの声が大きく入ったり、「ジークフリート」では録音機の調子がイマイチと、どうも期待したほどの成果が上げられなかったそうです。
ところが、「神々の黄昏」になってクナッパーツブッシュに正気が戻り、ようやくクナッパーツブッシュらしい名演が録音出来たとの事。その「神々の黄昏」が今日の録音です。
しかし、一部歌手の契約問題から折角の名演、名録音は発売出来ずにいたわけです。多分、ヴォークリンデを歌っているエリーザベト・シュヴァルツコップが英EMIと専属契約を結んでいる事が大きな理由ではないかと想像します。それでなくても英EMIは英DECCAとバイロイトでのライヴ録音の権利を巡って争っていましたからね。何より、シュヴァルツコップの夫君は英EMIのウォルター・レッグですから、横槍も入るというものでしょう。
その貴重な録音「神々の黄昏」がようやく日の目を見る事が出来たのは英TESTAMENT社の尽力によるものとの事。未発表の正規マスターからCDやアナログレコードを発売している英TESTAMENTレーベルの創始者は元英EMIのスタッフだったそうで、そうした出自も権利関係をクリア出来た一因かもしれません。
録音の存在は一般にも知られていたものの、前述の如く一部歌手の契約問題から未発売に終わるかと思われたクナッパーツブッシュの「神々の黄昏」が、英TESTAMENTから発売されるとアナウンスされた時には驚喜したものです。録音からおよそ半世紀。
音源はCDとアナログレコードで発売されました。リブレットにはクナッパーツブッシュのリハーサルでピアノをカラヤンが弾いている写真が掲載されていて、私は驚いたものです。まだまだ当時はカラヤンと言えどもクナッパーツブッシュの前では弟子みたいなものだったのでしょう。
ケースの写真(冒頭)、スコアを見ながら話しをしているのでしょうか、クナッパーツブッシュとカラヤン、それにヴォルフガングとヴィーラントのワーグナー兄弟が写っていて、貴重なスナップ写真だと思います。
さて、肝心の演奏ですが、これはもうクナッパーツブッシュの魔術に酔うだけです。「ジークフリートの葬送行進曲」から「ブリュンヒルデの自己犠牲」、そして幕切れまで、圧巻のひと言であります。管弦楽だけで演奏される「夜明けとジークフリートのラインへの旅」も、これぞワーグナーと言いたいくらいです。
歌手陣は以前ご紹介したショルティ盤より更に一時代前になりますが、どの歌手も皆、名唱を聴かせてくれます。バイロイトでのブリュンヒルデと言えば、アストリッド・ヴァルナイからキルステン・フラグスタート、そしてビルギット・ニルソンへと名歌手が続きます。ここではグートルーネを歌っているマルタ・メードルも挙げなければいけません。素晴らしいです!
アストリッド・ヴァルナイのブリュンヒルデ登場で第一声を聴いた瞬間、私は全身に鳥肌が立つ思いでした。いやもう、実に素晴らしいブリュンヒルデです。
ジークフリートを歌うベルント・アルデンホフ、ハーゲンのルートヴィヒ・ウェーバー等、男声陣も申し分なく、歴史的名演・名唱が繰り返し自宅で楽しめる事に感謝です。
録音もさすが名エンジニアのケネス・ウィルキンソンが担当しているだけの事はあります。1951年という時代の録音機材、そして録音するには最悪の環境と言われるバイロイト祝祭劇場にも関わらず、充分良い音で録れております。英EMIのカラヤン指揮による「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の録音を圧倒しています。やはり、当時の英DECCAと英EMIの録音技術の差を感じます。
- サリエルの命題 -
著者 : 楡 周平
講談社文庫刊
最近、読んだばかりの本をご紹介。
日本海の小さな島で新型インフルエンザが発生し、島に住む住民すべてが死亡するという事態が生じる。その新型インフルエンザウイルスは米国のカリフォルニア工科大学から流出したウイルスが遺伝子操作によって、強い毒性と感染力を持つ「サリエル」と呼ばれるウイルスだった。
サリエルは東アジアウイルス研究センターの名誉理事長である八重樫個人を狙って送り付けられた郵便物に仕組まれたものであり、それによって八重樫は感染してしまう。八重樫と接した島の住民(高齢者ばかり)、容態が悪化した八重樫を診た医師と看護士も感染し、全員死亡したのである。
八重樫を診た医師は自衛隊にヘリを使って本土の病院に運ぶよう依頼するも、折りからの悪天候のため本土からのヘリは飛ぶ事が出来なかった。しかし、それが不幸中の幸いとも言えるのであった。何故ならもしヘリで八重樫を本土の病院に運んでいたら、サリエルによるパンデミックは防ぎようがなかったからである。
送り付けた主は八重樫に恨みを持っている嘗ての部下、野原という人物で、八重樫個人への攻撃が目的だった。しかし、そのサリエルを野原に渡した人物、レイノルズ博士は余命幾ばくもなく、最後に自分が遺伝子操作で創り上げたウイルスで世界にパンデミックを起こすのが目的だった。
新型コロナウイルスで現在、世界中が疲弊しているわけですが、この小説が書かれたのは新型コロナウイルスが発見される前で、2017年から2018年にかけて「小説現代」に連載され、2019年6月に単行本が刊行されています。
ですから作者は新型コロナウイルスのようなウイルスで世界がパンデミックに陥る事を予見していた事になります。ただ、この小説はウイルスによるパンデミックを描く事が目的ではなく、少子高齢化する日本の社会保障(医療)制度にメスを入れています。
中でも問題視しているのが高齢者医療についてなのです。若手の議員が医療改革について語ると、一番の目的は高齢者を切る事。
なかなか興味深い小説ですが、前半と後半とではストーリーの趣が変わってしまったようにも感じます。ですが、自分の知らなかった事をこの小説で知ったりと、読んだ価値はありました。ワクチン、治療薬の接種優先順位について、案外ご存知ない方は多いと思います。私も知りませんでした。
よろしかったらご一読ください。
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
ロベルト・ミケルッチ(独奏ヴァイオリン)
イ・ムジチ合奏団
録音 : 1969年
蘭PHILIPS 6500 017(初出)
春が来ると聴きたくなる曲がヴィヴァルディの「四季」ですね。
まぁ、言わば耳タコの有名曲になるのですが、それでも偶に聴くと、やはり良い曲だなぁ・・・と、思うわけです。
一番好きな演奏はフェリックス・アーヨがコンマスをしていた頃のイ・ムジチ合奏団による録音で、以前「SACDを楽しむ(12)」の記事で掲載済みですが、そこでESOTERIC盤のSACDをご紹介しています。当時、レコードは全世界中で相当な枚数が売れたそうで、私も国内盤のレコードで繰り返し聴いたものです。
今日ご紹介のレコードはコンマスがフェリックス・アーヨからロベルト・ミケルッチに代わってからの録音です。コンマスが交代すると演奏も微妙に変わるものですね。
アーヨがソロを弾いていた演奏はレガートを多用した流麗な解釈で、実に気持ちの良い名演奏です。対してミケルッチがソロをとる演奏はややメリハリ調と申しますか、アーヨ時代よりアクセントを強調した解釈です。クラシック音楽は同じスコアを使いながらも、演奏者毎にそれぞれ解釈の違う演奏を聴く事が出来るのが一番の楽しみですね。
アーヨとは違う解釈ですが、ミケルッチの「四季」も名演です。
もし、お聴きになった事がありませんでしたら、是非一度お聴きになってみてください。CDで発売されておりますので。
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集
DISC 1
ピアノ協奏曲第1番 ハ長調
DISC 2
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調
ピアノ協奏曲第4番 ト長調
DISC 3
ピアノ協奏曲第3番 ハ短調
DISC 4
ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」
ヴィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
フェルディナント・ライトナー 指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 : 1961年6月(1, 2)、7月(3, 4, 5)、ベルリン
独グラモフォン 138 770/73(第2版)
最近、手持ちのレコードの中からベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴く機会が増えています。長い間、自分のベストワンとしてフリードリッヒ・グルダのピアノ、ホルスト・シュタイン指揮、ウィーン・フィルによる演奏を聴いて来ているのですが、それは今も変わりありません。
ですが、もちろん他の演奏も楽しんでいるわけでして、今日ご紹介するケンプのレコードもそうした中の一枚(全集ですが)であります。
同時代に活躍したバックハウスとライバル関係のように見られていたようですが、多分人気ではバックハウスだったのではないかと想像しています。しかし、演奏そのものはケンプも負けていません。ベートーヴェンのピアノ・ソナタやピアノ協奏曲で名演を残しております。
ケンプはモノラル時代にパウル・ファン・ケンペンの指揮で全集を録音しておりますが、今日ご紹介の演奏はステレオ時代になってからの録音です。指揮者はフェルディナント・ライトナーですが、日本での知名度は低いと思います。私自身もこの全集以外、ライトナーのレコード、CDは持っていません。
全5曲の中で一番の名演と個人的に思っているのは第3番で、ライトナーの指揮ぶりも素晴らしいです。シンフォニックな第一楽章、冒頭の第一主題を抑えめに提示するのですが、徐々に主題が大きくなると堂々たる響きになり、まるでシンフォニーを聴いているかのよう。しかし、第二主題はカンタービレで歌っているような表現で、実にお見事!
続いて登場するケンプのピアノもライトナーの解釈に呼応するかのように雄弁に歌います。とは申しましても、極端にダイナミクスを大きく取っているわけではなく、中庸な響きの一音一音を大事にした表現なのです。聴いていて「あぁ良いなぁ・・・」と、感嘆してしまいます。
第1番も素敵な演奏ですし、地味派手的な「皇帝」も好きな演奏です。地味派手って、どういう意味だ? って言われそうですが、ご想像ください。(^^;
雑誌などの名盤特集で採り上げられる機会の少ない録音のようですが、ベートーヴェンのピアノ協奏曲がお好きな方には是非一度お聴き頂きたい演奏集です。
この全集は単売されていた4枚をセットにしているのですが、第2番と第4番が一枚にカップリングされている事だけが残念。詰め込みカッティングになっているからですが、単売の場合、地味な第2番だけでは商売しづらいのでしょうね。
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