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2022年4月 8日 (金)

クナッパーツブッシュの「神々の黄昏」

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- 英DECCA 正規ライヴ録音(於 バイロイト)-

プロデュース : ジョン・カルショウ
エンジニア : ケネス・ウィルキンソン

ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」全曲

ブリュンヒルデ : アストリッド・ヴァルナイ(ソプラノ)
ジークフリート : ベルント・アルデンホフ(テノール)
ハーゲン : ルートヴィヒ・ウェーバー(バス)
グンター : ヘルマン・ウーデ(バリトン)
グートルーネ : マルタ・メードル(ソプラノ)
アルベリヒ : ハインリヒ・プフランツェル(バス)
ヴァルトラウテ : エリーザベト・ヘンゲン(メゾ・ソプラノ)
- 3人のラインの乙女 -
ヴォークリンデ : エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
ヴェルグンデ : ハンナ・ルートヴィヒ(ソプラノ)
フロスヒルデ : ヘルタ・テッパー(メゾ・ソプラノ)
- 3人のノルン(運命の女神)-
第1のノルン : ルート・ジーヴェルト(アルト)
第2のノルン : イラ・マラニウク(メゾ・ソプラノ)
第3のノルン : マルタ・メードル(ソプラノ)

ハンス・クナッパーツブッシュ 指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団

1951年8月4日、英DECCAによるバイロイト祝祭劇場でのライヴ録音

英TESTAMENT SBTLP 6175/80(6枚組 正規初出)

戦後、バイロイト音楽祭がようやく再開されたのが1951年。例のフルトヴェングラー指揮によるベートーヴェンの第9交響曲が再開記念として演奏されたのが7月29日、そして今日ご紹介の「神々の黄昏」が演奏されたのは8月4日です。

この再開の年、ハンス・クナッパーツブッシュとヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮による2サイクルで「ニーベルングの指環」が上演されており、ジョン・カルショウ率いる英DECCAの録音チームはクナッパーツブッシュによるサイクルの「ニーベルングの指環」を録音しているのです。

カラヤンと専属契約を結んでいる英EMIは翌1952年以降にカラヤンの「ニーベルングの指環」を録音する予定だったそうですが、1952年の「トリスタンとイゾルデ」を最後にカラヤンはバイロイトと袂を分かつ事になり、結局英EMIはカラヤンの「指環」を録音し損なっています。再開年の1951年は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の録音に力を入れていたわけです。

当初バイロイトとの録音契約を巡り、英EMIと英DECCAとで熾烈な争いをしていたようで、英EMIが正式な録音契約を結んだようです。しかし、諦めきれないジョン・カルショウは記述によるとワーグナー家に黙認してもらう形でクナの「指環」の録音を決行。発売権に関しては会社の方の尽力に任せる形を取ったようです。

カルショウによると初日の「ラインの黄金」はクナッパーツブッシュに冴えがなく、「ワルキューレ」はヴォータンの出来が悪いし、聴衆のノイズやプロンプターの声が大きく入ったり、「ジークフリート」では録音機の調子がイマイチと、どうも期待したほどの成果が上げられなかったそうです。

ところが、「神々の黄昏」になってクナッパーツブッシュに正気が戻り、ようやくクナッパーツブッシュらしい名演が録音出来たとの事。その「神々の黄昏」が今日の録音です。

しかし、一部歌手の契約問題から折角の名演、名録音は発売出来ずにいたわけです。多分、ヴォークリンデを歌っているエリーザベト・シュヴァルツコップが英EMIと専属契約を結んでいる事が大きな理由ではないかと想像します。それでなくても英EMIは英DECCAとバイロイトでのライヴ録音の権利を巡って争っていましたからね。何より、シュヴァルツコップの夫君は英EMIのウォルター・レッグですから、横槍も入るというものでしょう。

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リブレット表紙

その貴重な録音「神々の黄昏」がようやく日の目を見る事が出来たのは英TESTAMENT社の尽力によるものとの事。未発表の正規マスターからCDやアナログレコードを発売している英TESTAMENTレーベルの創始者は元英EMIのスタッフだったそうで、そうした出自も権利関係をクリア出来た一因かもしれません。

録音の存在は一般にも知られていたものの、前述の如く一部歌手の契約問題から未発売に終わるかと思われたクナッパーツブッシュの「神々の黄昏」が、英TESTAMENTから発売されるとアナウンスされた時には驚喜したものです。録音からおよそ半世紀。

音源はCDとアナログレコードで発売されました。リブレットにはクナッパーツブッシュのリハーサルでピアノをカラヤンが弾いている写真が掲載されていて、私は驚いたものです。まだまだ当時はカラヤンと言えどもクナッパーツブッシュの前では弟子みたいなものだったのでしょう。

ケースの写真(冒頭)、スコアを見ながら話しをしているのでしょうか、クナッパーツブッシュとカラヤン、それにヴォルフガングとヴィーラントのワーグナー兄弟が写っていて、貴重なスナップ写真だと思います。

さて、肝心の演奏ですが、これはもうクナッパーツブッシュの魔術に酔うだけです。「ジークフリートの葬送行進曲」から「ブリュンヒルデの自己犠牲」、そして幕切れまで、圧巻のひと言であります。管弦楽だけで演奏される「夜明けとジークフリートのラインへの旅」も、これぞワーグナーと言いたいくらいです。

歌手陣は以前ご紹介したショルティ盤より更に一時代前になりますが、どの歌手も皆、名唱を聴かせてくれます。バイロイトでのブリュンヒルデと言えば、アストリッド・ヴァルナイからキルステン・フラグスタート、そしてビルギット・ニルソンへと名歌手が続きます。ここではグートルーネを歌っているマルタ・メードルも挙げなければいけません。素晴らしいです!

アストリッド・ヴァルナイのブリュンヒルデ登場で第一声を聴いた瞬間、私は全身に鳥肌が立つ思いでした。いやもう、実に素晴らしいブリュンヒルデです。

ジークフリートを歌うベルント・アルデンホフ、ハーゲンのルートヴィヒ・ウェーバー等、男声陣も申し分なく、歴史的名演・名唱が繰り返し自宅で楽しめる事に感謝です。

録音もさすが名エンジニアのケネス・ウィルキンソンが担当しているだけの事はあります。1951年という時代の録音機材、そして録音するには最悪の環境と言われるバイロイト祝祭劇場にも関わらず、充分良い音で録れております。英EMIのカラヤン指揮による「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の録音を圧倒しています。やはり、当時の英DECCAと英EMIの録音技術の差を感じます。

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