サリエルの命題
- サリエルの命題 -
著者 : 楡 周平
講談社文庫刊
最近、読んだばかりの本をご紹介。
日本海の小さな島で新型インフルエンザが発生し、島に住む住民すべてが死亡するという事態が生じる。その新型インフルエンザウイルスは米国のカリフォルニア工科大学から流出したウイルスが遺伝子操作によって、強い毒性と感染力を持つ「サリエル」と呼ばれるウイルスだった。
サリエルは東アジアウイルス研究センターの名誉理事長である八重樫個人を狙って送り付けられた郵便物に仕組まれたものであり、それによって八重樫は感染してしまう。八重樫と接した島の住民(高齢者ばかり)、容態が悪化した八重樫を診た医師と看護士も感染し、全員死亡したのである。
八重樫を診た医師は自衛隊にヘリを使って本土の病院に運ぶよう依頼するも、折りからの悪天候のため本土からのヘリは飛ぶ事が出来なかった。しかし、それが不幸中の幸いとも言えるのであった。何故ならもしヘリで八重樫を本土の病院に運んでいたら、サリエルによるパンデミックは防ぎようがなかったからである。
送り付けた主は八重樫に恨みを持っている嘗ての部下、野原という人物で、八重樫個人への攻撃が目的だった。しかし、そのサリエルを野原に渡した人物、レイノルズ博士は余命幾ばくもなく、最後に自分が遺伝子操作で創り上げたウイルスで世界にパンデミックを起こすのが目的だった。
新型コロナウイルスで現在、世界中が疲弊しているわけですが、この小説が書かれたのは新型コロナウイルスが発見される前で、2017年から2018年にかけて「小説現代」に連載され、2019年6月に単行本が刊行されています。
ですから作者は新型コロナウイルスのようなウイルスで世界がパンデミックに陥る事を予見していた事になります。ただ、この小説はウイルスによるパンデミックを描く事が目的ではなく、少子高齢化する日本の社会保障(医療)制度にメスを入れています。
中でも問題視しているのが高齢者医療についてなのです。若手の議員が医療改革について語ると、一番の目的は高齢者を切る事。
なかなか興味深い小説ですが、前半と後半とではストーリーの趣が変わってしまったようにも感じます。ですが、自分の知らなかった事をこの小説で知ったりと、読んだ価値はありました。ワクチン、治療薬の接種優先順位について、案外ご存知ない方は多いと思います。私も知りませんでした。
よろしかったらご一読ください。
最近のコメント